第199回 ついでに由来も調べる
社会人になりたての頃、バンクーバーを旅したことがあります。先日、ふとそれを思い出したため、「バンクーバーってどういう由来の地名なのだろう?」と気になり、調べてみました。
辞書を色々と引いてみると、イギリスの航海者であるGeorge Vancouverが元であることが分かりました。バンクーバーは1757年から1798年まで生きていますので、わずか40歳で亡くなったことになります。
ブリタニカ百科事典には以下のように記されています:
*13歳でイギリス海軍に入る
*クックの航海に参加
*1791年北アメリカ北西海岸の探検隊隊長になり、喜望峰経由で出発
*バンクーバー島の地域の調査に携わる
*1798年に英サリー州で死去
つまりバンクーバー地域の調査をしたのは彼が32歳の時。ちなみにサリー州リッチモンドは私が幼少期に暮らしていた街と同じ州にあります。
ということでまたまた気になり始めたのでネットで検索したところ、バンクーバー隊長のお墓はサリー州Petersham村のSt. Peter’s Churchにあるようです。早速本棚にあるサリー州マップを取り出してみたところ、2001年にわが家の息子がお世話になったベビーシッターさん宅のすぐ近くであることが分かりました。これほど近かったのであれば、一度ぐらいその教会に行っておけば良かったなあと思います。
さて、バンクーバー隊長は探検からイギリスに帰国後はかなり不遇の人生だったようです。たとえば海軍の部下、ピットから訴えられたのもその一例です。
バンクーバーは航海中、ピットの品行を問題視したのですが、それをピットは逆恨みします。そして帰国後は、従兄でもあるピット首相(小ピット)の力を借り、首相自らが新聞紙上でバンクーバーを非難する文章まで寄せました。
それでもピット本人は怒りが収まらなかったようで、今度は決闘まで申し込んだのです。バンクーバーはやんわりとこれを断るのですが、ピットはストーカーとなり、ロンドンの街角でバンクーバーに襲いかかりました。その様子が風刺画にも描かれています。
さらにこの風刺画について調べてみると、タイトルはThe Caneing in Conduit Streetとあります。絵を見るとピットがステッキをふりかざしてバンクーバーに襲いかかっています。
Conduit Streetはロンドン中心部にあり、ブランドショップが立ち並ぶボンド・ストリートに隣接します。短い道路ですので、当時どのあたりでこの事件は起きたのだろうとつい想像してしまいます。
ちなみにこの風刺画は大英博物館などのオンラインカタログに詳しい説明が出ています。もし展示されているならば実物をいつか見てみたいと思います。
・・・などと考えていたら、この春に大英博物館展が東京で開催されることを思い出しました。この風刺画が来るかどうかは別として、「大航海時代と新たな出会い」というコーナーがこの展示会にはあるそうですので、ぜひともこれは東京都美術館に足を運ばねば!
という具合に、バンクーバー市の由来を調べることからどんどん発展していきました。こうした作業も私にとっては楽しいひとときです。
(2015年2月9日)
【今週の一冊】
放送通訳現場ではニュースが毎日どんどん変化する。ある国の話題が連日出ていたかと思いきや、緊急ニュースで全く異なる分野の話題が飛び出すというのも日常茶飯事だ。私たち放送通訳者はどのようなニュースが来ても即座に同時通訳で対応することが求められる。狭く深くテーマを追求するよりも、広く浅く、あらゆる内容に適応することが必要なのだ。
しかし「ハイ、次、ハイ、次」のままで毎日を終えてしまうと、いつか自分の勉強不足を痛感することになってしまう。私の場合、表面的に「言語変換」ができたとしても、内容自体を把握していないことは自分が一番痛感している。そのためにもじっくりと腰を据えて学び続けなければならない。
今回ご紹介する一冊は先週に引き続きイスラム関連のもの。内藤正典先生のお名前を初めて知ったのは、地上波のニュース番組であった。私は日ごろ、放送通訳現場で長時間テレビを見ている分、自宅でテレビを見ることはまずない。現にテレビのリモコンは引き出しの中にしまってあるほどだ。しかし、一連の事件を日本のニュースはどう報道するのか気になっていたこともあり、その番組を見たのであった。
内藤先生は同志社大学で教鞭を執られている。テレビでの解説は非常に分かりやすく落ち着いており、中立的な立場からご意見を述べておられたのが印象的だった。ぜひとも先生の著作を読みたいというのが本書購入のきっかけである。
本書は2011年に発行されたものである。イスラムという宗教がどのようなものなのか、人々の価値観や思想にどういった影響を及ぼしているのかがよく分かる。今、報道されている中東関連のニュースを把握するには、現地に暮らす人々の「考え方」にまで思いを馳せる必要があると本書を読んでしみじみ感じた。
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