第195回 片づけ進行中
昨年末に大々的な片づけをしました。
もともと私は子どものころから片づけが好きでした。小学生のころ父の転勤で私は海外に暮らしていたのですが、英語が全く分からず、学校生活ではストレスを抱えていました。友達もおらず、家にこもることが多かったのです。そのため、大好きな音楽を聴きながら部屋の整理整頓をすることでモヤモヤを一掃していました。片づけのためというよりも、心のやり場をどこかで発散したかったのかもしれません。
その後もいらないものを捨てることはしてきました。しかしフリーランス通訳者になってからはなかなか捨てられないものが出てきました。ズバリ、仕事の資料と書籍です。
私は一つの案件につきA4サイズの封筒を用意しています。その中に仕事資料や自作の単語リストなどを入れてきました。そして仕事が終わると封筒の表に日付と案件名を書き、本棚に時系列順に並べてきたのです。長年通訳の仕事を続けるにつれて封筒が書棚を占める割合も増えてきました。従来の棚では収まりきらず、天井まである大きな本棚も新調しました。
それでも資料は増えるばかりです。考えてみれば当然ですよね。私は常日頃、片づけはダイエットに似ているなあと思っています。「食べる量」よりも「消費カロリー」が多ければ人間は痩せることができます。それと同様、「封筒の量」より「捨てる量」が多ければモノは増えずに済むわけです。
そうなると自分なりの処分基準を設けなければなりません。そこで第一のルールとして「1年間は保管」ということを決めました。なぜ1年かと言いますと、今の時代、情報はめまぐるしいスピードで進化します。たとえ古いものを持っていたとしても、時代に追いつかないのです。
もう一つは「リピート案件になるか」を考えました。二度と依頼がなさそうな案件は先のルールにのっとり1年たったら処分です。逆に何度も携わりそうなものであれば保管することにしました。
この2点に基づいて仕事封筒を見直したところ、大幅に減らすことができました。封筒の中には自作の単語リストも入っています。苦労して手書きでせっせと作り上げたリストを捨てるのは惜しいなあという気もしました。しかし大切なのは「自分の頭の中に入っていること」ですので、保管していても記憶になければそれはなかったも同然です。「単語を忘れたら調べ直せばよい」と思うことにして、自作リストへの未練を断ち切りました。
こうして処分を進めたおかげで本棚が大幅に空きました。同じような基準で書籍も整理してみたところ、こちらも本当にとっておきたい本だけが残りました。
私の場合、本は仕事資料以上に思い入れがあります。「この本を買った時の自分」というものが本そのものに染み込んでいるからです。中身をめくれば下線や書き込みの跡などもあります。しかし、1度読んで満足という本が大半ですので、それらは思い切って処分です。お気に入りの著者のシリーズも、本当に感銘を受けたものだけを残すことにしました。また、「背表紙の著者名を眺めるだけで励まされる」というものも保管です。
このような作業を12月から始め、今は洋服やアクセサリー、キッチングッズなどの処分を進めているところです。使う頻度や使い勝手、何を大切にしていきたいかということを考えつつ、楽しみながら片づけをおこなっています。
(2015年1月12日)
【今週の一冊】
「クロネコ遺伝子」岡田知也著、日本経済新聞出版社、2014年
私はここ数年、応援している企業がいくつかある。選び方の基準はいたってシンプル。従業員が活き活きと仕事をしており、それがサービスに表れているというのが最大のポイントだ。そのような企業の一つがヤマト運輸である。
先日のこと。仕事からの帰路、私はJRの駅に向かって歩いていた。その界隈は碁盤の目のようになっており、どの通りの雰囲気も同じように見える。しばらく歩いていると地図を片手に迷っていると思しき外国人旅行者のグループが見えた。私の姿を見つけるとその中の女性が道を尋ねてきたのである。
手にしているマップを見ると、行き先は近くのコインランドリー。もともと地図を見るのは私自身大好きなのだが、いかんせん、そのあたりの土地勘が私にはなく、しかも東西南北同じ風景に見えてしまう。うーん、どうしようと思っていたところ、緑色の荷台を押しながらこちらにやってきたのがヤマトのドライバーさんであった。
早速尋ねたところ、さすがはその地域の担当の方だけあり、すぐに答えて下さった。旅行者の方たちも大喜び。私もほっとした。困っている人を手助けしてくれるあのサービス精神もヤマト運輸の中にあるのであろう。
その心はどこから来るのかを知る格好の一冊が今回ご紹介する本。創業者・小倉昌男氏がどのような価値観を抱き、どう会社を運営してきたかが部下の目から書かれている。運輸業というとラフなイメージがあるが、本書に出てくる小倉氏は温厚で冷静。いつもお客様を第一にしたいという気持ちにあふれていた方であることがわかる。
私にとって最も印象的だったこと。それは小倉氏が部下に対しても実に丁寧な美しい日本語で語りかけていた点である。トップの考えを伝えるためには部下が分かる表現を使うべきというのが小倉氏の考えだったそうだ。易しい言葉で丁寧に語ること。組織を引っ張る人にとって大切なことを本書は教えてくれる。
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