第166回 反省する、引きずらない
仕事であれ日々の生活であれ、私たち人間は絶好調かと思うと、とてつもなく落ち込むことがあります。心身ともに健康であれば大して気にも留めないのに、心がささくれだっていると些細なことでも傷ついてしまいます。
私の場合、仕事の失敗が尾を引くことが実はあります。表では出さないようにしていますが、「あ~あ、あのときこうしていれば良かったなあ」と反芻してしまうのです。失敗した場合、なるべくその場で反省し、自宅まで暗い気持ちを「お持ち帰り」しないようにはしています。でも最寄駅から家までの道すがら、自らを振り返ってはあれこれ考えてしまうのです。歩きながら「うーん」「でもねえ」などと小声でつぶやいてしまうので、すれ違う人からは怪しまれているかもしれません・・・!
ただ、心がけていることはあります。それは「反省をできるだけ早くおこなうこと」と「翌日まで引きずらないこと」です。なぜならば、反省すべき時にきちんと振り返らなければ進歩がないわけですし、その一方でズルズルと持ち越してしまえば本当に気が滅入ってしまうからです。
具体的な方法として、私はメモ帳とペンを用意し、帰りの車内で「一人反省会」を行っています。大きなノートだと周囲の目が気になりますが、手のひらに収まる小さなメモパッドであれば、場所も取りませんし目立ちませんよね。
反省すべきことがある日、私はこのメモ帳を片手に、何が具体的に失敗と感じられたかを順不同で書き出します。また、そのしくじりが自分の心にどのような影響を及ぼしたかも記します。そうすることで「一つの出来事」に「どう感じたか」が具体的になるのですね。
書き出すことは大きなこと小さなことを含め、一通り出し尽くすようにしています。心の中にとどめるのではなく、あえて吐き出すことでモヤモヤ感を空っぽにするのです。心の奥底でうごめいているままだといつまでたってもスッキリできません。とにかく活字にするというのがポイントです。
こうして書き出したら、いったん通読します。こんな小さいこともあんなことも心に引っ掛かったのだなあと改めて感じます。この「通読」という作業は、実は先の失敗を追体験することになりますので、決して気持ちの良い作業ではありません。けれども私はあえてここを重視します。少し時間を置いてから自分の失敗を直視することも大事だと思うのです。
ところでみなさんはメモ帳に書く際、どのように書いていきますか?かつて私は片面に書いたらくるりとめくって裏面にも記していました。けれども最近はもっぱら片面だけに書いていきます。というのも、私は日記帳をつけているのですが、このメモ帳をページごと破り、のちほど日記に糊付けしているからなのですね。電車の中で日記ノートは恥ずかしくて開けないので、このようにしている次第です。
さて、一通り失敗とその印象を書いたら、次は「次回への対策」を考え、書いていきます。「今日はここで失敗したから、次はこういう風にしよう」という具合に、同じ過ちを繰り返さないようなアイデアを列記してみるのです。すぐに思いつかなかったとしても、「もう少し○○できるかも」という若干の改善点はきっとあるはずです。そう信じて、一歩でも進めるような案を自分なりに書き出していきます。
このようにしてひたすら書き続けてみると、モヤモヤ感や落ち込みムードも少しずつ晴れてきます。改善点として書き出したことを一つでもすぐに実践することで「よし、次こそ頑張ろう!」と思えれば、それだけで大きな前進だと私は思っています。
(2014年6月2日)
「謎ときガルシア=マルケス」木村榮一著、新潮選書、2014年
大学の授業でガルシア=マルケスの英文翻訳者のインタビューを取り上げたことがある。著者ガルシア=マルケスの思いにどれだけ寄り添いながら英訳しているかが綴られている英文記事だった。スペイン語から英語に翻訳することは、単なる単語の置き換えではない。まったく新しい作品が誕生するかのようだと語っていたその翻訳者のことばが印象的だった。
ガルシア=マルケスは中南米を代表する現代作家。魔術的リアリズムという手法で知られ、1982年にはノーベル文学賞も受賞している。世界中に多くのファンを抱える中、惜しくも今年4月に満86歳で亡くなった。
本書はガルシア=マルケスの多くの作品を翻訳した木村榮一先生が記したものである。作者の人となりや生い立ちはもちろんのこと、木村先生ご自身が様々な話題に精通し、それを惜しげもなく披露しているのが本書であった。開高健、ヨーロッパ文学における悲劇、グレアム・グリーンからスペイン史に至るまで、流れるように綴られている。
ガルシア=マルケスの作品を一冊も読んだことがなかったとしても、木村教授の文章は「序」の部分からぐいぐいと私たち読者を引き込んでくれる。読み手の私たちは、先生の描く世界が頭の中に繰り広げられていくのだ。光景がどんどん広がっていく、そんな一冊であった。
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