INTERPRETATION

第164回 仕事の選び方

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

指導している大学では学生たちの就職活動をする姿が見受けられます。すでに内定を得た学生もいれば、もう少し色々と検討したい4年生もいるようです。アベノミクスで景況感が上向く中、学生たちが希望の仕事にありつければと願うばかりです。

私が仕事を探していた頃と今では時代も価値観も異なります。ですので、かつての方法を今日にあてはめることはできません。ただ、仕事を選ぶにあたって私は次の3つを重視しています。

1点目は「自分が携わる商品を好きになること」です。メーカーであればその企業が作っているモノのファンであることが大切でしょう。なぜならば自分がキライなものに携わることほど辛いものはないからです。

私が最初に就職したのはKLMオランダ航空会社でした。ただ私の場合、普通の就職活動とは少し異なりました。と言うのも、大学4年生の夏休みに短期留学をすることが決まっていたからです。当時は夏休みが就職活動期間でしたので、日本を離れてしまえば動くことができません。仕方なく自力で新聞の求人欄を見ながら会社を回ることにしました。その時見つけたのがオランダ航空だったのです。

幼少期にアムステルダムで暮らしたことがある私にとって、KLMには親しみを覚えていました。結果的には最終面接で「オランダが好きでKLMが好き」という熱い思いを訴えられたのだと思います。自分が仕事で日々携わる商品やサービスを好きであることこそ、仕事のモチベーションになるとその時学びました。ちなみに今は通訳の仕事をしていますが、「通訳をする」という行為も、通訳業務に向けての勉強も私は大好きです。

仕事選びの2点目としては、「仕事で携わる人を好きになること」です。KLMの後、私は大学院留学を決意したため、オックスフォード大学日本事務所に転職しました。教育に関連した仕事に就くことで、大学院により近づけると思ったからです。そこでは上司や仕事上の取引先に恵まれてたくさんのことを教わりました。多少業務が大変でも、仕事を通じて接する人に恵まれることも大切だと思います。

日々の仕事を続ける上でもう一つ大事なのは、「自分の業務環境を好きになること」です。現在私は大学でも教えているのですが、緑の美しいキャンパスに身を置くだけで気分が引き締まります。たくさんの蔵書が保管された大学図書館、自由に使えるコンピュータ、栄養を考えた学食メニューなど、「学びの場」としてこれほど恵まれた条件はありません。このような所で指導できることを本当にありがたく思います。

どのような仕事であれ、大変なことや思いがけない状況に戸惑うこともあるでしょう。けれども「商品」「人」「環境」のどれか一つでも好きでいられれば、きっとその次に到達できると私は信じています。

(2014年5月19日)

【今週の一冊】

「忙しい毎日が劇的に変わる 教師のすごいダンドリ術!」山中伸之著、学陽書房、2013年

私は書店を見かけると必ずと言って良いほど立ち寄る。ネット書店ももちろん使うのだが、やはり実際に足を運ぶことで思いがけない出会いがあるからだ。くたびれているときは小さな店舗でサッと買い物をするが、エネルギーがあるときは大型店舗に足を踏み入れ、上から下までくまなく本を眺める。

そうした形でぶらぶら店内を歩いていると、ネットであれば決して見つけなかったであろう本に巡り合えることがある。今回ご紹介する一冊もそのようにして遭遇した。場所は小学校教育関連の棚。もともと「片づけ」や「整理収納」が好きな私にとって「ダンドリ術」というタイトルは目を引いた。

内容は小学校担任がどのようにして日々を効率的に過ごせるか、その業務ノウハウを列記したもの。私が指導しているのは大学と通訳学校だが、そこでも応用できるヒントがたくさん出ていた。たとえばパフォーマンスの相互評価方法や提出物の記名方法など、参考になるものが多い。ちなみに私は授業で提出物の課題をかなり出すのだが、手元に出されるものを見ると記名の箇所が右上であったり左下だったり、英語あるいは日本語だったりとまちまちだ。視覚的にパッと確認する上では統一することが必要だと改めて感じた。

他にも「5分でできることをリストアップする」「ルーチンワークを決めておく」など、効率的に仕事をこなすためのポイントが色々と出ていた。教壇に立つ者もそうでない人も、こうした技術を導入することは業務をスムーズに行う上で参考になると思う。そして何よりも私にとって大きかったのは、小学校の先生方がいかに大きな責任と誇りを持ちながら仕事をして下さっているかということであった。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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