第675回 英語に感謝
「英語をやっていて良かった」と思うエピソードをこれまで何回か書いてきました。たとえば数年前。腹部の上にコリコリしたものを発見。すわ、腫瘍かと不安になったことがあります。すぐに調べたところ、オーストラリアの医師が書かれた学術論文をネットで見つけたのです。それを読むと、「単なる脂肪の塊が偶発的にできるものであり、時間と共に消える」とありました。その後すぐに近所のクリニックで診て頂いたところ、同様の診断。安堵しましたね。嬉しさのあまり論文を執筆された先生にお礼のメールをお送りしました。いたずらに怖れることなく、冷静でいられたのも英語で事前に情報を得られたお陰です。
過日も「英語が読めて良かった」と思った出来事がありました。
その日は日曜日。数週間後の大きな会議通訳を控えて私は自宅で準備をしていました。外は美しい初春の太陽。自宅も大好きなのですが、やはり長時間同じ作業を続けていると煮詰まってきます。「愛車でドライブに行こうかな」と思うも、あまり遠出をすると疲労につながります。車の運転は好きですが、やはり見えない所で体が緊張するので、疲れを貯めないためにもドライブは選択肢から除外。
ではどうする?そこで思い立ったのが自転車。春の息吹を感じながら景色を楽しむにはピッタリ。徒歩では近場だけになりますが、自転車だと行動半径が広がりますよね。ということで、ペダルを漕ぎだしました。
今回の目的地は、以前からチェックしていた某カフェ。いつもはチェーン店のカフェで仕事をすることが多いのですが、この日はせっかくですので前から気になっていたお店に行こうと決めました。
自転車で走り出してまず気づいたこと。それは春の花の開花以上に「香り」でした。そう、花の香りが漂ってくるのですね。景色そのものは今の時代、美しいデジタル写真や映像で堪能できます。でも「香り」だけは、その場に居合わせない限り体験できません。春の花々の香りはまさにアロマセラピー。懐かしい香りもあって、それだけでペダルを漕ぐ足にも力が沸いてきました。
しばらくしてお目当てのお店に到着。一番乗りでした。案内されて席へ。店内を見渡すと実に美しい装飾品の数々。オーナーの好みが現れています。かつて私が海外に暮らしていた頃によく見かけたグッズもアンティークとして展示されており懐かしい。ケーキとポット入り紅茶を注文しワクワクしながら待つ間、ふと壁に目が行きました。そこに掲げられていたのがデザイナー・Rachael Bereshさん作のポスター。人生訓が一枚の紙にびっしりと詰まっています:
https://www.roomie.jp/2012/05/5094/
(オンラインメディア「ROOMIE」、中島彩さんの記事より)
ポスターの下を読むとThe Holstee Manifestoとあります。大元はだいぶ前に発表された会社スローガンなのですが、私にとっては初めて目にする内容。一字一句を読みながら大きな感動に包まれました。
よくよくこのポスターを見てみると、レイアウトの工夫がわかります。右上のLIFE.と左下のLIFE IS SHORT.は太い大文字です。他の文章のフォントサイズも様々。すべて左から右に読むわけではなく、ブロックごと固まっている箇所もあります。読み進める上で工夫が必要であり、それがますます読み手を惹きつけるのです。
この文章を読んで「人生は一度切りで短い」と私は改めて感じました。生きていれば悩みや苦しみもあるでしょう。でもそのこと「だけ」にとらわれていたら、あっという間に月日は経ってしまうのです。
たまたま出かけたカフェで偶然見つけたポスター。
「英語を学んでいて良かった。英語に感謝」との思いを今回も抱いたのでした。
(2025年3月25日)
【今週の一冊】
「イラストで読む湯けむり建築五十三次」宮沢洋著、青幻舎、2024年
日経アーキテクチュアの元編集長・宮沢洋さん。私は氏の建築イラストが好きで、本稿でも以前ご紹介したことがあります:
https://www.hicareer.jp/inter/hiyoko/17238.html
本書は宮沢さんが日本各地の温泉や銭湯・スパなどをくまなく取材してイラストに描いた一冊。日本の温浴施設の多くが、日本を代表する名建築家によってデザインされているのです。
実は数週間前、本書に掲載されている某宿泊施設に泊まりました。私はもともとあまり温泉に関心が高い方ではなく、今回も「部屋備え付けのバスルームで良いかも~」と思ったほど。でもせっかく大浴場や露天風呂もあるそうなので、浴衣に着替えてタオルを持参し、向かったのでした。
寒い日でしたので「とにかく早くお湯につかりたい」とばかり入り口から入ると極寒!しかも露天風呂だけだったのです。「え?温泉ってこれだけ?」と思ってしまいました。幸い露天風呂の温度は熱かったので湯冷めは避けられたのですが、モヤモヤ感だけが残り翌日チェックアウトしました。
しかし!本書で確認したところ、なんと大浴場は別の入り口だったのです。要は私の確認不足。本書を読むと、その大浴場は建築的にも実に特徴的でした。ああ、何ともったいないことを!しかも本書に紹介されている他の施設の多くが「日帰り入浴可」なのに、このホテルは「不可」・・・。実に実に惜しいことをしてしまいました(笑)。
ぜひみなさま、温泉をご利用の際には本書をご一読の上、建築にもご注目を。そして間違っても私のように「気ばかり急いて館内表示をロクに確認しない」などということになりませぬよう。
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