第673回 キビキビ・ハキハキ・シャン
以前お世話になっていた近所の自転車屋さんが閉店しました。今から20年以上前に私が転入してきてからずっと利用していたお店です。ホームページもなくインスタもやっていない、まさに「町の自転車屋さん」。店主のお人柄がとにかく素晴らしく、私はそのお店が大好きでした。我が家の家族全員がそこで自転車を新調し、空気が抜ければ立ち寄り、ランプやギアがおかしくなれば駆け込んでいました。そのたびに店主さんはいつも親切に対処して下さったのです。
閉店の理由はご自身の年齢と体力とのこと。お店を畳んだ後は、別の街に移り住むのだそうです。地元から愛されていただけに、きっと多くの住民が残念に思うことでしょう。店主さんの末永いご健康をお祈りしたいと思います。
なぜ私はこのお店が好きだったのか、改めて考えてみました。
先に述べた通り、店主さんの性格や思いやりが真っ先に挙げられます。けれどもそれ以上のことがあるのです。それが「キビキビ・ハキハキ・シャン」という本稿のタイトルです。
以前私が住んでいたマンションの清掃スタッフさんもそうだったのですが、とにかく自分の仕事を誇りに思っている様子が体からにじみ出ているのですね。つまり動きがキビキビしているのです。話し方もハキハキ。さらに姿勢がピンと伸びて美しいたたずまいです。この3つが醸し出されると、ご本人の仕事に対する愛情があふれ出てきます。その様子が私は好きだったのです。そうした仕事ぶりを拝見するたびに、「私も自分の仕事を心から愛して丁寧に取り組もう」と思わされました。
そんな思いを抱いていた先日のこと。偶然この「キビキビ・ハキハキ・シャン」が体現された動画を見つけました:
https://youtu.be/MpXzZk0GDr0?feature=shared
京葉線の「有名車掌Aさん」として知られているそうです。検索するとほかにもたくさんアップされています。仕事への真摯な向き合い方は周囲を感動させます。Aさんのファンもかなりいるようです。
仕事にどう向き合うべきか。私は改めて考えさせられています。
(2025年3月11日)
【今週の一冊】
「ユーモアは最強の武器である:スタンフォード大学ビジネススクール人気講義」ジェニファー・アーカー、ナオミ・バグドナス著、神崎朗子訳、東洋経済新報社、2022年
本書を手に取ったのは、「現在のトランプ政権」がきっかけです。「果たして第二期トランプ政権の内部はどのような雰囲気なのかしら?」と、ふと思ったのですね。現にトランプ氏は就任前から「自分の敵へは報復する」と宣言していたのです。となれば、たとえ意見を同じくする側近で固めたとしても、かなり空気は緊迫しているのではと想像しました。
では、ユーモアがあると組織はどのようになるのでしょうか?それを解き明かしたのが本書です。「スタンフォード大学」とある通り、元になったのは大学の授業です。そういえば2015年に大ベストセラーとなったケリー・マクゴニガル先生の本もスタンフォードでしたよね(「スタンフォードの自分を変える教室」。こちらの本も翻訳が神崎朗子氏です)。
さて、ユーモアをテーマとした本書を読み進めると、実に興味深いポイントがたくさん出てきました。たとえば「人間が笑う回数」。なんと23歳を機に減って行くのだそうです。23と言えばちょうど社会に出たあたり。組織の内部に入ることで、色々と周囲の目が気になったり、人間関係でいっぱいいっぱいになったりということもあるのでしょう。
著者によれば、ユーモアというのはトレーニングをすれば必ず上達できるとのこと。大事なのは「ウケ」を狙うのではなく、「自分にはユーモアのセンスがある」と相手に伝えることと説きます。また、ユーモアがあれば、人生で大変なことや失敗などがあっても、切り替えて立ち直りが早くなるとも述べています。そういえば私が応援している落語家・桂宮治さんは「新車の納車当日にこすってしまった!」というエピソードを面白おかしくラジオで語っていました。本人にとってはショックなことも、こうして語ることで昇華できるのでしょう。
最後に印象的だった文章を2つ:
「ユーモアは塩のようなもの」(p244)
→ほんのひとつまみが良い。多すぎてもいけない。
「偉そうなのは時代遅れ」(p245)
→圧力で人を動かすより、ユーモアがあった方が協力を得られます。
なお、第二次世界大戦期に首相を務めたイギリスのチャーチルは、抜群のユーモアの持ち主でした。チャーチルがいたからこそ、戦後構想が実現したと私は見ています。
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