INTERPRETATION

第669回 おこもりバンザイ!

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

私が毎朝欠かさず聴いているTBSラジオの「森本毅郎 スタンバイ!」。6時半から8時半までの2時間番組で、ニュースやスポーツ、トレンドなど盛りだくさんです。民放ラジオなのでCMも頻繁に入りますが、テンポ良い進行であるため、内容はぎっしり。日替わりコメンテーターによる解説も素晴らしく、海外ニュースも充実。私自身の通訳業務に大いに役立っています。

番組コーナーの一つ、「現場にアタック」では日替わりで担当記者が様々なトピックを取材してレポートしています。中でも私のお気に入りは月曜担当のTBSパーソナリティ・田中ひとみさん。毎回トピックのバリエーションが豊富で、特に田中さんは体の不自由な方々にとって役立つ話題を頻繁に取り上げて下さり、いつも考えさせられています。

で、その田中さん、実は「おひとりさま」行動が大好きなのだそうです。「一人ラーメン」を始め、バスケットボールをわざわざ買って一人バスケも楽しんでいるとのこと。さらに新宿御苑・年間パス所持者でもあり、お一人で楽しく散策されているそうです。ステキですよね。

というわけで今週の本稿タイトルは「おこもりバンザイ!」。私も一人で行動するのが好きなので、そこから派生してのお話です。きっかけは、「とある連続セミナー」です。

以前から関心があって申し込んでいた某テーマの連続セミナー。一回目は楽しく出席したのですが、2回目の前日にふと「明日のセミナー、何だか乗り気でないなあ」と思ってしまったのです。申し込んだときは学習意欲満々!初回のセミナー自体、楽しんでいたのに、です。

なぜ急に気持ちが失せてしまったのでしょう?理由として考えられるのは、

1 初回のセミナーで満足してしまった
2 講師と私の相性がイマイチだった

このような感じでしょうか。では、もし2回目も頑張って参加した場合、私にどのようなメリットがあるでしょう?

1 受講料を全額払ったので、きちんと参加すればお金は無駄にならない
2 第2回以降も内容面で学ぶことはあるはず

確かにそうですよね。せっかく支払いをしたのですから、参加すれば「学び」につながります。そうは思いました。でもなお、気乗りしません。そこで電卓を取り出し、以下の計算をしました:

1 セミナーの全受講料+自宅からの往復交通費(出席回数分)
2 上記1をセミナーの合計回数で割り、一回当たりの実費用を算出
3 上記2の数字を「5」で割り、1時間当たりの金額を計算(「5」とは自宅を出発してセミナーに参加し、帰宅するまでの5時間の意)

計算の結果、「1時間当たり1600円」と判明しました。

この数字を眺めた上で思ったこと。それは「1600円を無駄にしてでも私にはやりたいことが他にある」でした。それがゆえに気乗りしなかった、ということなのです。具体的なヤリタイコトとは、

1 読書
2 宅トレ
3 原稿執筆

でした。お金の惜しさよりも、上記3つへの気持ちが強かったのですね。

確かにセミナーに出れば得られる学びも多かったでしょうし、他の参加者との交流なども期待できるでしょう。でもそれを上回る「何か」があるのであれば、そちらを選択しても良いと私は考えています。現に今、この原稿は上記セミナーの帰宅時間よりも早い時間帯に執筆しています。朝から読書もしましたし、先ほどは動画サイトでエクササイズも完了。私としては「おひとり様・おこもり状態」でとても幸せな時間を過ごせたのです。

よって、本日の自分への教訓:

「強烈にやりたいことがあるなら、その直感を信じて良し!」

おこもりバンザイ!です。

(2025年2月11日)

【今週の一冊】

「不機嫌は罪である」齋藤孝著、角川新書、2018年

世界情勢が先行き不透明な昨今、誰もがモヤモヤ感を抱いている印象です。物価高、地球温暖化、地域紛争、関税問題など、暗いテーマを考えればきりがありません。ただ、心理学者のアドラーは「課題の分離」を提唱しています。自分のチカラで対処できることとできないことをきちんと分けて考える、という意味。自力で解決できるならベストを尽くすべきですが、そうでない場合、むやみに心配しても自分が消耗するだけです。

人間は心の中がもやっとしてしまうと、つい不機嫌になりがち。それを「ワザ」で上機嫌に変えようというのが今回ご紹介する齋藤孝先生の一冊です。印象的だったポイントを3つご紹介します。「→」は私の感想です:

*SNSは無免許運転者が高速道路を走るようなもの
→正しい書き込み方法を知らず、思い付きでつぶやいてしまえばあっという間に炎上してしまう。その速度とインパクトは確かに本当に恐ろしい

*上機嫌であり続けるために齋藤氏が心がけていること:
(1)SNSを一切やらない
(2)エゴサーチを自分に禁じる
→自分の発言がどう炎上するか恐ろしいからこそ、あえてやらないという生き方は賢明。エゴサーチも自分のメンタルに良い作用を及ぼさないことがあるゆえ、「自分に禁じる」という方針は大切

*苦しみというのは後悔と不安が引き起こすもの
→「今、ここ」に集中して生きることが大事

世の中に「不機嫌スイッチ」の要素が多数存在する今の時代だからこそ、「上機嫌になるためのテクニック」を人は身につけると幸せになれますよね。そのことに改めて気づかされた一冊でした。最後にこちらもどうぞ。上機嫌になるために単語カードを活用しているという記事です:
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2409/03/news188.html

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者、獨協大学および通訳スクール講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2024年米大統領選では大統領討論会、トランプ氏勝利宣言、ハリス氏敗北宣言、トランプ大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラム執筆にも従事。

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