第665回 反省・教訓のつなげ方
数年前まで落語とは縁遠い生活を送っていました。変わるきっかけは日本テレビで毎週日曜夕方放映の「笑点」。コロナ禍で観始めたところ、ハマりました。
以来、出演者の独演会やラジオ番組、書籍やインタビューにも注目。師匠たちの話はとにかく秀逸です。それも、自身の失敗談を面白おかしく語るのです。たとえば春風亭昇太さん。足のけがをした際、「薬を飲んだのに痛みが治らない」→「あとで薬袋を見たら、痛み止めと胃薬ではなく、胃薬だけ2錠飲んでいた」というお話。あるいは桂宮治さん。「新車を買った」→「駐車場にやっとの思いで入れたらこすっちゃった!」などなど。いずれもラジオでのトークでした。スライドや動画がなくても、聞いているこちらは頭の中がその光景でいっぱい!ご本人は大変な思いをされているのですが、それを笑いに変えるのが噺家さんの凄さです。
「もしかしたら通訳者としてこの仕組みを応用できるかも」。そう私は思いました。何しろ通訳の仕事は、300パーセントの準備をしたとて、現場で10パーセント的中すればラッキーという側面もあります。当日まで何が出てくるかわからない。それが通訳者の世界です。私など、仕事後の帰路はいつも一人反省会タイム。「あの単語も拾えなかった」「もっとわかりやすい構文にすれば良かった」など、まあ出てくる出てくる。でも、そこで落ち込んでいたら先に進めません。
では、どうするか?落語家マインドで好転させれば良いわけです。落ち込むということは、自分を客観的に見つめている証拠。それができるだけでも、次につながるはずです。反省点はもちろん即改善。単語調べや音読練習などすぐに実行するのがベストです。一方、自分の授業では現場の失敗談をどんどん披露。エッセイストの岸田奈美さんいわく「どんな苦労も10年後には笑い話」ですが、私の理想は「10分後」ですねえ。
ところで昨年末、プライベートで猛省することがありました。1つ目は「胃もたれ」。
その日の私は在宅ワーク。勢いがついたため、休憩もとらず朝からひたすら仕事。かつてこのコラムで「45分仕事→15分運動」を唱えましたが、それよりも、とにかくキリの良いところまで完了したかったのです。気がつくと時計は14時を回っていました。空腹の限界!ということで昼食を。あまり食べ過ぎると夕食に差し支えるので、とりあえずチーズトーストを準備。さらに「あ、そうだ。冷蔵庫に昨日のフライドチキンが残ってた!」と取り出し、加熱時間ももどかしかったので冷たいまま食べました。空腹だったので大満足。
ところが!夕方になるや強烈な胃もたれ。ネットで調べると、油物は3時間ほどで消化とのこと。食べた直後は平気でしたが、物凄く気持ち悪くなってしまったのです。はるか昔に味わった「つわり」再来。体の右側を横にして休む(胃への負担軽減に良いとのこと)、入浴、胃薬、お酢ドリンクなどで、かろうじて回復しました。いやあ、七転八倒でした。
そして同じ日の夜。加湿器に水を入れようとしたときのこと。「タンクを取り外して給水すると重くなるから、吹き出し口からそのまま給水しよう」とひらめき。1リットルペットボトルに水を汲み、小さな吹き出し口めがけて注入開始。「あーラクちん」と思っていると、床が見る見る水浸しに!グリム童話「おいしいおかゆ」の景色さながらです。「吹き出し口≠タンク」であることを初めて知りました。
というわけで「教訓その1:自分の胃袋を過信しない」、「その2:横着しない」と学びました。考えてみたら食べ過ぎも「自分の胃袋に対して横着した結果」なのですよね。仕事の反省も結局のところ、勉強不足、つまり「横着」。今年のキーワードは「脱!横着」といたしましょう。
・・・で、「横着」って英語で何て言うんだっけ?
(2025年1月14日)
【今週の一冊】
「脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術」樺沢紫苑著、大和書房、2017年
精神科医の樺沢紫苑さんは「樺チャンネル」のユーチューブでも実にアクティブ。今回ご紹介するのは、そんなマルチに活躍する樺沢氏の時間術です。
ちなみに私が初めて「時間術」を意識したのは、大学時代に読んだジャーナリスト・千葉敦子さんの「ニューヨークの24時間」。同じ1日なのに、これほど充実した日々を歩めるのかと衝撃を受けました。限りある人生だからこそ、自分軸を持って時間を大切にしたいと痛感したのでした。
本書でとりわけ印象的だったのは、「脳のゴールデンタイムを活かす」ということ。具体的には起床直後です。人間は、睡眠をしっかりとって目覚めれば、脳が完全にクリアな状態になります。その時間帯が一番集中できるのですよね。なのに、せっかくの朝の貴重な時間をメールやニュースなど、多様な情報で埋め尽くしてしまうのはもったいない、というわけです。
私は普段5時半に起床している(厳密には「するようにしている」)のですが、本書を読んで以来、まずは連載原稿執筆をするようになりました。それまで数時間かかっていた書き物が数十分で完了するようになり、自分でも驚いています。
本書は具体的な時間活用法が満載。自分の一日を改めて振り返り、集中できる時間とリラックスすべきタイムを見極められるのが、本書の特徴です。
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