第648回 変える勇気
「初心者の場合、まずはスクールで学ぶのがオススメ」
という趣旨を書きました。その道のプロに教われば具体的な学習方法がわかります。効率的ですよね。少しずつ実力がつき、自分なりのやり方が見えてきたら独学に変えても良い、というのが私の考えです。
たとえ自学自習でも、気に入った方法であれば、楽しく続けられます。おそらく歯磨き同様、日常生活の中にトレーニングが組み込まれているはずです。
けれども、大事なことがあります。それは「自分が本当にその方法に満足しているか?」を常に自問自答すること。なぜなら、義務感や惰性で取り組んでいると、勉強自体がつらくなってしまうからです。
具体例を見てみましょう。たとえば、ユーザー評価の高い英語学習アプリを始めたとします。スマホなのでいつでもどこでもできるのが最大のメリット。導入当初は真新しさもあり、自宅でも移動中でも隙間時間でも取り組むようになりました。しかし、少し時間が経つと、何となく飽きてきました。
ここでどうするかがポイントです。考え方としては以下の2つがあります:
(1)「せっかくここまで続けたのだから、ここでやめるのはもったいないし悔しい。自分に負けるようで嫌だなあ」
(2)「とりあえずここまで続けたから良しとしよう。自分がワクワク感を抱けないということは、もう卒業して良いのよね。次を探してみよう」
みなさんはどちらでしょうか?
かつての私は(1)でした。「継続は力なり」「石の上にも3年」「塵も積もれば山となる」などの格言が頭の中をちらつき、「続けることこそ美徳」と執着していたのですね。でも、取り組もうとするたびに億劫さやイヤイヤ感が内心湧きあがります。学習しているはずなのに頭の中に雑念が浮かび、やがて1日、2日とさぼるようになります。さぼった自分がこれまた嫌になり、でも、取り組んでも楽しくないし、という具合。まさに「つまんなーい」の悪循環です。
でも、方向転換は敗北ではないのです。むしろ、自分が成長したからこその進路変更と思えば良いのです。それまでの教材(スクール、アプリ、テキスト等々)に心から感謝して次に進む時期が来たということなのですよね。
「新たな学習法、どんな教材にしようかな?」を自分に許して良いのです。むしろ、「変えよう」という勇気を持った自分は、成長のあかしなのです。
それまでの努力は決して無駄ではありません。でも、モヤモヤ状態で続けることは時間のロスになってしまいます。「変わろう」という勇気の自分をたたえて、一緒に学び続けましょう!
(2024年9月3日)
【今週の一冊】
「問うとはどういうことか~人間的に生きるための思考のレッスン」梶谷真司著、大和書房、2023年
セミナー通訳で実は一番難儀するのが「質疑応答時間」です。とりわけ日本人聴衆が質問される際、同通でも逐次通訳でも難しいのですね。なぜでしょうか?それは、日本語の場合、主語がなく、動詞が最後に来るため、英文を組み立てられず、概要がつかみづらいことが挙げられます。
もう一つ、非常に困ってしまうのが「日本人の質問の仕方」です。質問コーナーなのに延々と自分の意見を述べるケースが目立つのですね。
「なぜ日本人は質問することが不得手なのか?」
この問いをめぐり、同じような考えを持つ友人がプレゼントしてくれたのが今回ご紹介する一冊です。
著者の梶谷先生は東大で哲学を教えておられる教授です。タイトルにある通り、「問う」ということについて多角的かつ具体的に綴られており、トレーニング方法も出ています。問い方がイマイチわからない読者にとって、これは大いに参考になります。
しかしその一方で、著者は問うという行為がややもすると苦しみを生み出す、とも書いています。たとえば過去について思い出しては「なぜあんなことをしてしまったのか」という具合です。問いすぎる弊害というのがあるのですよね。
「問題があっても『問題だ!』と思わなければ大したことではない。問題が起きたことじたいは、良いも悪いもなく、たんに『問題が起きた』、それだけのことである。ただ問題のままにしておけばよい。」(p206)
思考を深める上で「問う」という行為は大切です。しかし、問い過ぎて心が疲弊してしまったら本末転倒。これで私が思い出すのがアメリカのフィラデルフィアで荒廃していた学校を立て直したLinda Cliatt-Wayman先生のTEDトーク。彼女のキーワードは、”So what? Now what?” です。問い過ぎることをやめて、次へのステップを考えることが大事なのですよね。
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