第629回 自律学習、どうやる?
今週あたりから学校も本格化しますね。私が暮らしている地域では昨日が始業式でした。いよいよ新たな学びの年が始まります。私も明日から大学の授業開始です。
さて、近年、学習現場で使われている「自律学習」ということば。「自立」ではなく「自律」と書きます。この違い、どこにあるのでしょうか?まとめるとこうなります:
*自律学習:
教師の力に頼らず、自らが学習スケジュールを立て、それに沿って実践して学ぶ。
*自立学習:
教師の力に頼らず、自分一人で学ぶ。
つまり、主体的に学習目標を決めて計画を立て、実践していくことを「自律学習」と言うのですね。一方、「自立学習」は、「先生の立てた学習計画や、出された宿題を一人で家でやる」というイメージです。どちらも似ているようですが、「自律」の方が計画から実行に至るまでを含むことがわかります。
大学では科目ごとに「シラバス」という履修計画内容が発表され、学生はそれを学期開始前に読んでから履修科目を選んでいきます。私が学生の頃は「履修要覧」という冊子になっていましたが、科目説明はさほど詳しくありませんでした。当時はサークルの先輩から「楽に単位をとれる楽単科目」を伝授されて、選ぶ時代。あの頃は大学レジャーランドとも言われていたのです。
現在は文科省の要請もあり、シラバスの記載内容は細かく決められています。授業回ごとの内容、成績評価方法、テキスト、事前・事後学修なども記載されます。これを執筆するのが毎年1月から2月にかけてであり、実はかなり神経をつかいながらの作業となります。なぜなら、この時点で指導計画を完全に作っておかねばいけないからです。でも、一旦これを作成して大学のサイトにアップロードしておけば、4月以降の授業実践もこれに基づけば良いので、スムーズになるのですよね。
さて、今回のキーワードの「自律学習」。実は私自身、日ごろの勉強でこれを意識しています。もっとも私の場合、何か目標があるわけではないのですが、自らテーマを設定し、そこからどんどん広げて学ぶのが楽しいのですね。最近の例を挙げると、絵本の原書・和訳読み比べ作業があります。
絵本名:「カーロ、せかいをよむ」(ジェシカ・スパニョール作、アーサー・ビナード訳、フレーベル館、2002年発行)
原書:”Carlo Likes Reading” (Jessica Spanyol, Walker Books, 2001)
この絵本には「モノの名前」が出ており、日本語版には英単語・和訳・英単語の読み方も記載されており、子どもの英語学習にも使えます。この原書・和訳を用いて、私は以下の作業を行い、発見したことがありました。まとめると:
1.まずは原書の英語を音読し、続けて日本語を音読
→音読をすることでそれぞれのリズムを体感。原文に忠実な和文の長さになっていた
2.原文と和訳の違いを読み比べ(絵本は頁数が少なく、短時間でできます)
→英語は主語があるものの、和訳では省略(日本語の特性)。一方、原書に描かれているゴミ箱は”bin”なのに、和訳版では”trash”表記。日本発売版は米英語にしたことがわかる
3.絵そのものに注目
→イギリスのアンティークに出てくる袖机を発見。ネットで調べたところ、このタイプの机はpedestal deskというもの。一方、台所のシーンでは、イギリスで1970年代まで流行したタイプのガスレンジが描かれていた
4.その他
→主人公はCarloという名前。これはCharlesのイタリア語読み。ちなみにドイツ語ならKarl、スペイン語ならCarlosとなる。一方、著者のSpanyol氏の名字も珍しいので調べたところ、元はハンガリーの名字であり、イギリスにも多いとのこと
・・・ざっとこのような感じです。一つのことからどんどん派生して調べられるのが、今のネット時代の良いところ。一冊の絵本から大いに楽しむことができたのでした。
みなさんもぜひ、自分なりの「自律学習」を楽しんでみてくださいね!
(2024年4月9日)
【今週の一冊】
「写真と歴史でたどる日本建築大観:第一巻 開国後の西洋建築導入と発展」(石田潤一郎監修、国書刊行会、2021年)
私自身は正真正銘の「文系人間」ですが、昔から建築には興味があります。とりわけ関心を抱いているのが、開国後の西洋建築。お雇い外国人が日本でどのような建物を建築したのか、また、日本人技師との間でどのようなコミュニケーションを図っていたのか等に注目しています。京都には昔の西洋建築がたくさん残っており、私は神社仏閣よりも、京都の洋風建築を訪ねるのが好きです。
今回ご紹介するのは数年前に発行されたシリーズの第一巻。表紙をめくると日本地図があり、北は北海道から南は九州まで、各地に点在している近代建築の場所がわかります。東京であればお茶の水のニコライ堂、日本銀行本店本館などが紹介されています。
嬉しかったのは数年前に訪れた京都の「無鄰菴(むりんあん)」が出ていたこと。明治政府で尽力した山縣有朋の別荘です。敷地内には洋館と和風の母屋があり、東山を借景とした素晴らしい庭園があります。本書は百科事典並みの大きさなので、これを片手に「建物巡礼」というのは難しいかもしれませんが、眺めているだけで出かけたくなります。シリーズ化されている他の本も読んでみたくなりました。
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