第627回 「今」しあわせですか?
在宅ワークの日はなるべく朝のうちにウォーキングをするようにしています。毎朝聴いているのはTBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」。日替わりコメンテーターの解説がわかりやすく、海外ニュースも多く取り上げられているため、私にとっては欠かせない情報源です。番組の終わりにはリスナー参加型の「トークファイル」というコーナーがあり、私もときどき寄稿しています。採用して読み上げていただけるのはとても嬉しく、その日は一日中幸せな気分になります。
この番組が終わるのは午前8時半。まだまだウォーキングは続きます。そこで私はradikoをJ-WAVEに合わせ、別所哲也さんの番組に耳を傾けます。こちらは音楽あり、トークありで楽しい番組。中でもお気に入りは「モーニング・インサイト」というコーナー。各界の著名人がスタジオゲストとなり、別所さんとトークを繰り広げます。
先日のゲストの方のひとことが実に心に響きました。それは、
「公私同根(こうしどうこん)」
というもの。語ったのはスープストックトーキョーを展開する遠山正道さんです。
このことばの根底にあるもの。それは仕事とプライベートを完全に分けてしまうのではなく、どちらも楽しもうという考えです。別所さん自身、ラジオパーソナリティーやミュージカル俳優、コメンテーターなど様々な活動をされていることから、深く同意されていました。
わが身を振り返ってみると、私もこれに近いなあと最近感じます。
通訳の仕事は確かに体力勝負です。ケガや病気で穴をあけることはできませんので、日ごろの体調管理が大事。本番に向けて徹底的に準備をします。当日は大いなる緊張感のもとで同時通訳を展開していくのです。労働時間は数時間かもしれませんが、終わると疲労困憊です。
でも、この仕事が好きなのですよね。
日常生活でも、「あ、この情報を仕入れておくと、いつか役にたつかも」「英単語を調べるのが楽しい」など、仕事と趣味の境目はあいまいです。私の場合、指導の仕事もしていますので、映画・演劇鑑賞や読書、スポーツなど、あらゆることが授業ネタにつながると感じています。
つまり、仕事とプライベートが分かれていないのです。私的時間をワクワク楽しく過ごす。そしてそれが遠い将来、実を結ぶかもしれない、という思いは、未来への希望に繋がります。
「今」しあわせですか?
そう自らに問いかけることが、生きる原動力になっていると思います。
(2024年3月26日)
【今週の一冊】
「ガンピーさんのふなあそび」ジョン・バーニンガム著、光吉夏弥訳、ほるぷ出版、1976年
子ども時代にたくさん触れていた絵本も、大人になると縁遠くなりがちですよね。でも、本サイト「ハイキャリア」の中で連載されている翻訳家の寺田真理子さんは、自著の中で絵本の素晴らしさを綴っておられます。私も人生の折り返し地点を過ぎてから、改めて絵本に魅了されている一人です。
今回ご紹介するのはイギリスの絵本作家ジョン・バーニンガム氏の名著。日本では1976年に翻訳されており、親子数代でこの作品に触れた方もいらっしゃるのではと想像します。
登場人物は「ガンピーさん」という男性。舟で出かけると、色々な生き物が「乗せて」とやって来ます。ガンピーさんは断ることなく、乗せてあげて漕ぎ続けるというお話です。誰も拒否せずに歓迎する、というストーリーは、ウクライナ民話「てぶくろ」を連想させますよね。
ちなみに私は最近、絵本の英語・日本語読み比べに魅了されています。本作の英語版”Mr. Gumpy’s Outing”に出てくる登場人物の一人称はすべて”I”ですが、和訳では「あたし」「わし」などとあり、読み手はこの時点で登場人物の性別や年齢層を知ることになります。こうした人称をどう和訳するかは翻訳者の腕の見せ所でもある分、難しさも伴うことでしょう。
ほのぼのとした絵から、イギリスの田園風景を彷彿させる一冊です。
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