INTERPRETATION

第616回 目的を意識していきたい

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

2024年が開けました。昨年はご愛読いただきありがとうございます。今年も通訳や英語学習、また日々に感じたことを綴ってまいりたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします!

さて、前回のコラムが第615回で、数字の話を少ししたのですが、今回も少々。1月初回の本稿は「616回」です。このように同一数字で挟まれたものを「ミラーナンバー」と呼ぶのだそうです。ちなみに同じ数字がそろうのは「ぞろ目」ですよね。「ぞろ目」と言えば、昨年末、某駅改札口から入場した際、前の男性の残高が「1111円」!思わず「わあ、ラッキー」と思いました。そこで「ぞろ目って英語で何?」と調べたところ、「手っ取り早く検索できる某著名サイト」では”Zoro eyes”と出てきてしまい、朝から爆笑してしまいました。まだ「ヒト通訳者」活躍の余地はありそうです。

さて、2024年・辰年が到来した元旦に、私の元へ恩師から年賀状が届きました。そこに書かれていたのがEnd”という単語。これには「終わり」の他に「目的」という意味もあります。先生はすでに退職されていますが、これからも目的に向かって歩み続ける旨が書かれていたのです。

人には誰もが今生で果たすべき役割がある、と私は感じています。それは何も大きなことでなくても構わないのです。日々の仕事を通じてでも良いですし、誰かに寄り添い、支えていくというケースもあると思います。とにかく自分の役割や使命を感じながら毎日を過ごすことこそが、充実した人生につながるのではないでしょうか。

何をどう頑張っても、今日という日が人生で一番若いことに変わり有りません。どれほどアンチエイジングに励んでも、体力づくりに邁進しても、やはり人は年齢を重ねていきます。それが人間として生まれてきた定めです。

でも、一方で、今日という日が人生で一番「知恵」を有しているとも私は思うのです。過去から学び、苦しみから教訓を得てきたからこそ、次に向けて歩み続けられます。このことに改めて気づかされた私は、

「今日が人生最年少。今日が人生最多知恵」

と唱えるようになりました。

過去一年間に様々なことがあったように、今年もきっと多くの未知に出会うでしょう。でも、その都度考えを深めながら、人生の目的を意識しながら、歩を進めていきたいと思っています。大好きな通訳や指導の仕事を通じて、ささやかでも良いので世の中のお役に立てたらと感じています。

(2024年1月9日)

【今週の一冊】

「品格語辞典」関根健一監修、大修館書店、2022年

私は大学卒業後に入った航空会社で心がけていたことがあります。それは「元気に電話に出ること」。当時はまだメールが無い時代。すべてのやり取りは電話だったのです。先輩方の受け答えを見ながら「よし、私も感じ良く元気な応対をしよう」と意識していました。

しかし、ある日のこと。上司に呼ばれてこう言われたのです。

「早苗ちゃん、あのね、『目上の人』をねぎらう時は、『ご苦労様』ではないよ。正しくは『お疲れ様』ね。気を付けてね。」

・・・ええっ!?

実はこの時生まれて初めて、「ご苦労様」と「お疲れ様」の違いを知ったのです。ああ、恥ずかしい。営業マンからかかってくる電話や取引先の方に、私は平気で「ご苦労様」を連呼していたのです。

というわけで今回ご紹介するのは「品格語辞典」。あの赤面事件以来、ことばには気を付けねばと意識するようになりました。ましてや今の仕事は通訳業。VIPにお目にかかることもありますし、放送通訳という職業柄、正しい日本語を話す必要があります。

本書は五十音順に言葉が並べられており、それぞれの語に適した品格溢れるフレーズが紹介されています。古語も出ていますので、古風な言葉遣いを知りたい人にも参考になるでしょう。さらに漫画家・いのうえさきこさんのイラストが秀逸。誤用を描いたマンガが読者をクスッと笑わせてくれます。「ジーニアス英和辞典」など、辞書発行でも知られる大修館書店ならではの一冊です。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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