INTERPRETATION

第607回 Freelance.  Sounds good??

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

平日朝欠かさず聴いているのがTBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」です。それまでは民放のCMが嫌で某国営放送を聴いていました。が、「スタンバイ」はCMの存在を忘れさせるぐらい中身が充実。日替わりゲストがわかりやすくニュースを解説しています。番組のキャッチコピーは「聴く朝刊」です。

その「スタンバイ」で20日金曜日に取り上げられていたのが「フリーランス」。番組の経済評論家・伊藤洋一氏によれば、「フリーランスという言葉はsounds goodだが、近年、就業中事故が増えている」とのこと。その率や30パーセント近いそうです。

かく言う私もフリーランス通訳者。フリーで働くメリットは本当に計り知れません。私のようなラッシュ・人混みニガテ人間にとり、朝晩それを避けられる人生は恩恵。あるいは平日昼間に病院や金融機関に行けるのも助かります。空いている行楽地や芸術鑑賞を可能にさせてくれるのもフリーならではです。

でも、「就業中事故経験者が30%」というのは他人事にはできません。私自身、機械ではないので、ケガや体調不良で仕事を休んだことは過去にあります。自分の健康第一ですが、仕事で穴をあけてしまうことには罪悪感が伴いますし、何よりも、それが信頼失墜につながり「次の仕事が来なかったらどうしよう?」という恐怖心も生じるのです。

幸いここ数年大きな病気には見舞われていませんが、ずいぶん前には年に1回、しかも必ず2月に1週間寝込むような体調不良に陥っていました。おそらく緊張感の連続で働き続け、年が明けて一段落する2月に疲れが出てしまうのでしょう。布団から出られず食欲不振。ようやく体調か回復するも感覚鋭敏になってしまい、いつもなら何とも感じない周囲のニオイにやられたほどでした。

とは言え、「あ、危ないかも」と思うことは時々あります。最近で言うなら、イスラエル紛争が始まってから。連日、悲惨な映像を見続けて心が疲弊し(いわゆる共感疲労)、他の仕事も繁忙期だったことから、へとへとになってしまったのです。喉の痛み、口内炎、関節痛や首肩背中のコリ、目の下のクマなどなどでした。

そのような時は一大事になる前にとにかく予防行動するに限ります。万が一喉の痛みがひどくなった場合に備えて、近所の耳鼻咽喉科の診察券をお守りのように持ち歩きました。また、喉専用薬と喉スプレー、ビタミン剤も購入。大根と長ネギとをスーパーで購入して調理。あとはひたすら睡眠時間確保につとめたのですね。

若い頃、40度台の高熱になったものの、仕事に穴をあけられずに踏ん張って出社したところ、午後には完全に解熱してピンピンしたことがありました。これなど若さゆえの気合だったのでしょう。さすがに「あの栄光よ、もう一度」というわけにもはやいきません。が、今回は心の中で「これ以上、ゼッタイに悪化させないゾ!」と某アニメ5歳児のように唱え続け、難を逃れたのでした。

Freelance.  Sounds good?

でも現実はこんな感じです。

(2023年10月24日)

【今週の一冊】

「ことりっぷ 長崎 ハウステンボス・五島列島」ことりっぷ編集部、昭文社、2021年

今の時代、旅行の話題を集めるならネットがメイン。最新情報にありつけますよね。営業時間や金額など、正確なものを確認できます。とても便利です。一方、私が学生時代はもっぱらガイドブックが主流。昔はJTBやJALなどの大人向けガイドブックが人気でしたが、その後「地球の歩き方」が誕生。学生向けの格安旅行を可能にしてくれたのがこのシリーズです。私もずいぶんお世話になりましたね。

今回ご紹介するのは「ことりっぷ」というシリーズ。出版しているのは地図の昭文社です。「ことりっぷ」のコンセプトは「週末に行く小さな旅」。本書では可愛い小鳥イラストもお目見えします。

さて、今回これを選んだ理由。それは昔からハウステンボスに出かけたいとの思いを抱いていたからです。幼少期にオランダに暮らし、大卒後はKLMオランダ航空に入社、ミフィーちゃんやコンセルトヘボウのオーケストラなど、オランダは私にとって身近。でもハウステンボスだけはなかなか訪ねる機会がなかったのです。そこでぜひとも近いうちに観光しようとのことで本書を手にしたのでした。

ガイドブックの良いところは、「情報が厳選されていること」。一定のページ数に収める必要上、あらゆる情報を網羅することはできません。選び抜かれた目的地やグルメ、お土産などが本書にはカラーで掲載されています。巻末には取り外せる地図があって便利。しかも本書は手のひらサイズでページ数も手ごろ。バッグに入れて持ち歩けます。

まずはガイドブックで基本情報を手に入れ、最新の料金などをネットでチェックする。これで旅行も完璧なのではと思います。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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