第601回 棚卸
毎週欠かさず観ているのがBS朝日で放映されている「ウチ、断捨離しました」。https://www.bs-asahi.co.jp/danshari/
断捨離提唱者・やましたひでこさんが、片づけられない&捨てられない人たちを指南する番組です。私は断捨離や片付けが大好き。迷える方々をやましたさんがどのように導いておられるかに興味があるのですね。当事者に寄り添い、励ましていく様子は、「生き方」をも考えさせられます。山のようなモノに囲まれていた相談者たちが、やがて片付けや人生に折り合いを付けていく様子が映し出されるのです。晴れやかな表情でエピソードが終わるたびに、私も幸せな気持ちになります。
私自身も小学校低学年のころから片付けが大好きでした。きっかけは「現実逃避」。宿題が大変だったり、何となくモヤモヤすることが学校であったりした際、机やクローゼットの中を片付けてスッキリすると、それだけで達成感を抱けたのですね。もっとも、当時の私は「捨てる」ことはせず、単に分類するだけ。たくさんある靴下(多分1ダース以上ありました!)を丁寧にたたんで綺麗に並べたり、文房具を色別・用途別にそろえたりという具合でした。
「モノとお別れする」というスタンスになったのは、社会人になってから。とにかく増えすぎた本や書類を何とかしたいという思いからでした。また、転居が相次ぎ、処分しないと大変という状況になり、断捨離は加速しました。ジャーナリスト・千葉敦子さんの本に触発され、「モノを探す時間がもったいない」という考えにも影響を受けたのですね。
そこからさらに派生してミニマリストの本やブログも参考にするようになりました。ただ、「減らすことそのもの」を目的にしてしまうと何となく淋しいので、あくまでも基準は私なりのスタンス。おかげで日常生活で「モノを探すこと」は大幅に減り、ストレスフリーになっています。
もう一つ心がけていること。それは、人生の節目の出来事に直面したときです。仕事やプライベートなど、一区切りつくことが生きているとありますよね。そのような際に、心機一転する方法として片付けや断捨離はとても清々しい気分にさせてくれるのです。心理的効果は抜群だと思います。
最近私にもそのような状況があり、せっかくですので「プチリフォーム」を実践しました。賃貸物件ですので大幅な変更はできませんが、家具の配置を変えたり、使わなくなったものを処分したりという具合。「古い自分から卒業しよう!」と思いながら進めると、はかどります。大物だけでなく、仕事資料やノートなども取捨選択しました。手を動かしながら処分したり場所を入れ替えたりしていると、「自分はこれからどのような生き方をしたいのか」を考える機会になります。
「自分」という人間を作ってくれたモノや人との出会いも、時代の流れやライフステージと共に変化していきます。変わりゆくことを恐れず、目の前にある未来だけをしっかりと見つめることのできる貴重な「棚卸」です!
(2023年9月12日)
【今週の一冊】
「音楽はお好きですか?」藤岡幸夫著、敬文社、2020年
生きていると様々な「出会い」がありますよね。今回ご紹介する指揮者・藤岡幸夫さんとの出会いも多くの積み重ねを経てのことでした。大元をご紹介するとすれば、ラトビア出身の指揮者マリス・ヤンソンス。私はロンドン大学に留学していた1993年に、勉強があまりにもハード過ぎてクラシックコンサートに逃避していました。コンサート中は誰にも邪魔されず音楽に浸れます。そうすれば辛い論文執筆や文献講読からも逃げられるのですよね。そのときたまたまホールで聴いたのがヤンソンス。その美しい指揮に魅了されたのでした。
以来、ヤンソンスの「追っかけ」のようになり、在英中はひたすらコンサートへ。帰国してからも来日コンサートは欠かさず行きました。しかし、2019年晩秋に持病で亡くなってしまいます。76歳という若さでした。
ヤンソンスに似たような指揮をする人をそれから探すことしばし。そしてたまたま出会ったのが高関健さんでした。穏やかな振りはヤンソンスを彷彿させたのです。それから高関さんのSNSをチェックするようになりました。
ある日のこと、氏のSNSに出ていたのが藤岡幸夫さん。読むとBSテレ東で放映している「エンター・ザ・ミュージック」に高関さんが出演されるとのこと。早速視聴したところ、藤岡さんの楽しいトークにすっかり魅了されたのです。そこから藤岡さんウォッチング(?)が始まったのでした。
本書は藤岡さんのあのフレンドリーで愉快なトークがそのまま聞こえてくるような一冊。藤岡氏がどのような経緯で指揮者になったのかという背景もわかります。マエストロ一押しの曲もたくさん紹介されており、クラシック初心者でも十分楽しめる一冊です。
印象的な個所を一つ:
「神さまは、なぜ僕を指揮者にしてくれたのか?指揮者にはそれぞれ天命があって、『日本でクラシックの裾野を広げる』ことも僕にとって大切な天命です。」(p181)
ここにある通り藤岡さんはクラシックをより多くの人たちに楽しんでもらいたいという使命感で活躍しておられます。この一文はクラシック音楽はもちろんのこと、どのような仕事にも当てはめられると私は思うのです。いえ、仕事だけでなく、人生にも通じるように感じます。
本書をきっかけにクラシックファンが増えることを願っています。
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