第593回 タスクも良いけれど
以前聞いた話によると、雑誌特集で必ず売れるのは「ダイエット」「英語学習」「時間術」なのだとか。もっとも昨今は雑誌自体が販売不振となり、老舗の誌名が書店から姿を消すという時代です。世の中が移り変わるとは言え、慣れ親しんだ雑誌が休刊というのは何とも寂しいものです。
さて、私自身はと言うと、昔から時間管理に興味がありました。人生は誰にとっても限りがあるもの。ならばそれを最大限活かして充実した日々を送る方が幸せに思えますよね。そのきっかけとなったのが、ジャーナリストの故・千葉敦子さん。私は学生時代に千葉さんの「ニューヨークの24時間」と「ニュウー・ウーマン」を手にして衝撃を受け、以来、彼女の唱える時間活用や生き方そのものに傾倒していったのでした。
それまでも私自身は目標を立てて計画に落とし込み、実践することが楽しいというタイプでした。幼少期に暮らした海外では友達ができず、家の中もあまり居心地が良くなかったのですね。よって、勉強に逃げることが私にとって唯一の安堵の時間だったのです。以来、何かを達成することが自己実現となり、自己肯定感につながっていきました。
そうした生き方が長年続いたからでしょう。今でも手帳(紙版です)は愛用しており、B5のリングノートを肌身離さず持ち歩いては、思いついたことをすべて書き込んでいます。かつては読書ノート、日記、英語学習記録、通訳業務用など別々のノートにしていたのですが、すべて一冊にして時系列にする方が効率的と思って以来、今は手帳&ノート1冊のスタイルです。元外交官の佐藤優さんも、すべてを一冊に収めておられ、その方が過去のノートを振り返る際に記憶をたどって検索しやすいと述べています。私も同感です。
毎朝私は起床後すぐに手帳(机上に常に開いた状態で置いてあります)で今日の予定をチェック。フリーランスで働いているため、出社時間や集合場所などまちまちです。よって、しっかりと確認します。そして、出発まで間がある場合は、在宅でできること・やるべきことをノートに書いていきます。たとえば原稿執筆をするのであれば、「□原稿」という具合。正方形のチェックボックスを書いてタスクを書くのです。そして、その業務が完了したらチェック☑を入れます。一日の終わりにチェックが入ったボックスがたくさんあると、「ああ、今日もがんばったなあ」と嬉しくなります。もっとも、すべて完了などと言う日はほとんどないのですが。
ただ、最近ふと気づいたことがあります。それは私の場合、何でもかんでもチェックボックスを付けて「タスク」にしてしまうこと。仕事や家事の「やるべきこと」を記述するならまだわかります。でも、趣味やリラックスの項目も、こうして正方形のハコを書いて列記してしまうのです。「□録画した○○を観る」「□ハンドマッサージをする」などなど。せっかく心身ともにゆったりとした気分になりたいのに、これではレジャーまでTO DO LISTに落とし込まれてしまいます。
うーん、何だか本末転倒。だからなのかしら、リラックスしているつもりが常に心拍数が高いのは?そういえば昔、日本テレビで「生でダラダラ」とかいう番組があったっけ。私ももっと「ダラダラ」目指したいなあ、と思ってしまいます。
時間管理も効率化も、行き過ぎると常時テンションMAXになりかねません。あ、でもこのままだと「□ダラダラする」「□リラックスすること」と悪循環になりそう。ビクトル・ユーゴーの「ああ無情」のごとく、「嗚呼・・・」とため息が出そうです。タスクも良いけれど、ほどほどに、です。
(2023年7月11日)
【今週の一冊】
「イギリスの家庭料理」砂古玉緒著、世界文化社、2015年
私は昔から不定期で食、とりわけスイーツのマイブームが入れ替わってきました。たとえばモンブラン、シフォンケーキ、バウムクーヘン、厚切りトーストなどなど。好きになるととことんそれを追求するのですね。コンビニだけでなく、スーパーやデパ地下、専門店などでそのアイテムを連日買ってきてしまい、家族に呆れられてしまうこと数知れずです。
目下私が凝っているのはイギリスのスコーンです。スコーンには思い入れがあります。幼少期に暮らしたイギリス時代、小学校で初めて調理実習があった際のレシピはスコーンでした。日本の調理実習ではだし巻き卵など「まじめな」(?)メニューが多いと思うのですが、いきなりお菓子というのはオドロキでした。以来、好物がスコーンになったのです。
今回ご紹介するのはイギリスの家庭料理を取り上げたレシピ本。著者の砂古さんは現在大阪を拠点に料理教室を開いておられます。イギリスに10年ほど在住経験があり、それがきっかけとなってイギリス料理に魅了されたそうです。
本書にはスコーンやキャロットケーキなどイギリスならではのスイーツを始め、イングリッシュ・ブレックファーストやヨークシャー・プディングなども出ています。日本で手に入る調味料でできるのもありがたいところ。「家庭料理は、しあわせな食卓を約束してくれます」(p3)という著者の熱い思いが伝わってくる一冊です。
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