INTERPRETATION

第572回 駆け込み!アナウンス研修

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

先日、アナウンス研修を受けました。受講した理由は次の通りです:

1.長年、通訳の仕事をしてきたが、近年やたら疲れやすい。通訳や授業のたびに頭皮から腰までガチガチ。
2.自分のベストな発声がわからなくなった。地声が好きでないので、高めの声を出すべく頑張りすぎて疲れる。
3.腹筋の使い方。姿勢や椅子の高さなどがわからない。

こうした現状を改善したいと思っていたのです。

ネットで探したところ、六本木近くの民放系アナウンススクールを発見、早速申し込みました。個人指導です。

当日、緊張しながら受付を済ませると、アナウンス経験豊富な講師の方が笑顔で出迎えてくださいました。レッスンが始まってまず驚いたのは、私について事前に色々とリサーチしてくださっていたことです。私が過去におこなったセミナーなどを動画サイトでチェックしておられ、それを元にアドバイスをしてくださったのです。私が何に悩んでいるかを先生の方から言い当てて下さり、感激しました。

レッスンでは私が持参した放送通訳原稿を読み上げるセッションもありました。私が原稿を読む間、先生は私の肩をいわば「触診」しつつ、体のどこに力を入れ過ぎているのかを確認され、その次の練習へとつなげてくださったのでした。60分の個人レッスンは実に密度が濃く、今後私自身が通訳時に何を意識すべきかがわかりました。思い切って申し込んで本当に良かったです。もしこのコラムをお読みの方で発声にお悩みであれば、ぜひ受講されることをお勧めします。

今回、私が一番満足感を抱いたのは、何よりも先生のお人柄でした。アナウンサーの大ベテランであられる先生はとても明るく、楽しいお話を交えながら私の潜在的な力を引き出そうと様々な工夫をなさっていました。「先生のような発声になりたい、近づきたい」という思いが私を突き動かしてくれたのです。

この受講を機に私は「理想の学び」について改めて考えてみました。私にとっての結論は以下の3つです:

1.レッスン料金よりも中身
英語学習に限らず世の中の「学び」は近年、「お手頃価格」を謳うものが多いですよね。でも、大事なのは先生の指導力とお人柄。今回のアナウンス研修は受講料をはるかに上回る素晴らしさがありました。

2.単発レッスンの魅力
世の中は忙しくなっており、何週間・何カ月もそのレッスンに費やすのがスケジュール的に難しい人もいます。高額な受講料を払うも、もし授業内容や講師が自分に合わなかったら?失うものが大きすぎます。

3.一回当たり集中できる時間には限りがある
今回のアナウンス研修は単発で60分。盛りだくさんだったので、あっという間でした。一方、個人的には、人々の集中力が年々短くなっているように感じます。現にTEDトークは「18分以内」が原則。人気の学習動画は5分以内はおろか、90秒・30秒のショート動画もお目見えしています。昔のスクールは1時間以上がメインでしたが、人々の意識も変わってきたということなのでしょう。

学びに何を求めるかは人それぞれですよね。私自身は受講料より指導者のお人柄に魅了されるタイプです。今回のような「単発で密度の濃いレッスン」が様々な学びの分野で広がると良いなと思います。

(2023年2月7日)

【今週の一冊】

「筋トレで夢を叶える 超一流のメンタルマッチョ養成講座」(Testosterone著、宝島社、2017年)

2020年春まで私はコンスタントにジム通いをしていた。お目当ては筋トレのスタジオレッスン。音楽に合わせて体を動かすというもの。20年ほど前に始めた当初は全くバーベルを上げられなかった。が、続けていくうちにどんどんハマり、ウェイトも増やすことができた。コロナが蔓延するまでは。

世の中のすべてが「停止」してしまい、ジムも一時休館。それを機にトレーニングから遠ざかってしまったのだ。それまで運動していた人間が突然動かなくなると、ろくなことがないというのが個人的感想。体はなまるし、思考も後ろ向きになってしまう。そんな状態が2年近く続いてしまった。

でも、そのしんどさにどっぷりと浸りきったおかげかもしれない。ある日突然、「もうこんな状況からは脱出だっ!」と思い、体を動かしたくなった。そこで偶然手に取ったのがTestosteroneさんの一冊で、以来、氏の著作はほぼ制覇した。

今回ご紹介するのは夢や生き方への指南本。なぜ人は悩みのループにはまるのかがわかる。そこに落ち込んでしまうと抜け出すのが大変。だからこそ、筋トレをして体を動かし、血の巡りを良くして思考を晴れやかにすることが大切であることが本書からわかる。

生きる上での悩みの大半は人間関係によるもの。「他人に期待するのはギャンブルと同じ」(p189)などの名言多数。読むと一刻も早く筋トレをしたくなる、そんな一冊。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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