INTERPRETATION

第131回 長続きの秘訣

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

イギリスでの夏休みは私に色々なことを気づかせてくれました。この11年間渡英する機会は一度もなく、海外に出たのも6年ぶりです。今まで国内にいた分、何かが解放された気がします。日本とは異なる価値観、仕事観、生き方や暮らし方など、多くの発見がありました。

せっかく貴重な気づきを得て帰国したので、今もその絆を維持しようとしています。具体的には以下の3点です。

1点目は自分が話す英語です。幼少期にイギリスにいたので、以前はイギリス英語を意識して話していました。しかし、仕事でアメリカ英語を聞くことが多くなり、「発音よりも中身」という価値観も出てきたため、自分の英語がどっちつかずになっていたのです。私はイギリス英語の響きが好きなので、これからは意識して話していこうと思います。好きなFM放送をネット経由で聴き続けるのも、音楽や英語に触れる貴重な機会です。

2つ目は英字新聞です。読売新聞社が発行するThe Japan Newsの日曜版には英紙The Timesの抜粋が掲載されています。イギリス関連の記事も多く、写真も日本語新聞と比べて珍しいアングルのものがあります。英語表現も通信社配信のものと比べてひとひねりしていますので、英語の勉強になります。

そして最後が雑誌The Economistを読むことです。これまでも何度か買ったことがあるのですが、「英語が難しそうだしページ数も多いし・・・」という理由で何となく敬遠していたのです。普段英字新聞を読んでいますので、あえて時事問題を扱う雑誌まで買わなくても良いという思いもありました。けれども先日購入してみたところ、自分の見方は先入観に過ぎなかったことがわかったのです。ニュースや科学、文化の話題に珍しい広告など、総合的に見て実は読みごたえがあると気づきました。ですので、今後も読み続けようと思います。

ただし、私の場合は注意が必要です。というのも、「これ!」と決めると一気に突進する傾向があるからです。上記のThe Economistで言えば、「いきなり1年間の定期購読を始めてしまう」「毎日○○ページを読破する」「知らない単語は必ず調べる」など、壮大な目標を立てる恐れがあります。

確かに集中して取り組む方が効果は高いかもしれません。ただ、あとで失速して挫折というパターンを私はこれまで繰り返しています。ですので、今回は「長~くつきあう」という取り組みを大切にし、はやる気持ちをおさえようと思っています。確かにThe Economistは一部1200円しますので、60%近く割引となる定期購読は魅力です。もし今後半年間、書店で欠かさず毎週購入するぐらい本誌の忠実な読者になったならば定期購読をしようと考えています。逆に3週間続けて書店で買っても読むのを後回しにするようであれば、少し冷却期間を置こうと思います。

こうした「時間的な基準」を自分なりに設けることは、長続きの秘訣なのでしょうね。私たちはつい惰性で色々なことを続けてしまいますが、真に実になるものは案外少ないのかもしれません。読まずに積まれている本、何となくとっているメールマガジン、出かける予定はないのにスクラップしてある旅関連の切り抜きなどなど。私自身、心機一転を図るためにも改めて整理をしてみて、好きなことを長続きできるような環境を作りたいと思います。

(2013年9月9日)

【今週の一冊】

“This is London” M. Sasek, Universe Publishing, 2004

またまた今週もイギリスで買った本を。こちらはすでに暮らしの手帖の松浦弥太郎編集長による翻訳版も出ているそうだ。イギリスに関する情報は書籍でもネット上でもたくさんあるが、心和むこうした絵本も一冊あると嬉しい。

表紙をめくると一面茶色いページ。あれっと思い下の英文を読むと、”it is hidden in fog like this”とある。こうして読者をひきつけるのは読んでいて楽しい。ページをめくるごとにロンドンの名所旧跡がどんどん出てくるので、一通り観光できる。

著者のサセックは1916年、チェコスロヴァキアのプラハ生まれ。東欧の絵本やデザインというのはここ数年日本でも人気だが、きっとサセックはそのパイオニアでもあるのだろう。他にもパリやエジンバラを始め色々な都市の絵本ががあるそうなので、いつかそちらも読んでみたい。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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