第128回 完成図を空想する
お盆休みも明け、そろそろ「日常」に復帰という方もいらっしゃると思います。初夏が涼しかったかと思えば、大雨が降ったり蒸し暑かったりと、体にとってもなかなか応えますよね。わが家もそうした中、子どもたちが夏休みに入って以来、3度の食事に自分の仕事、家族の行事など、毎日があっという間の日々を過ごしています。
忙しいとついつい作業が雑になり、ミスも増えてしまいます。仕事の場合、お給料を頂いていますので、万全を期して臨みますが、家の事となるとつい後回しにしてしまったり、適当に仕上げてしまったりという状態です。私の場合、頭の中で翌日の仕事や締め切り間近の原稿を考えつつ食事の支度をしたりしますので、どうしても目の前の作業がおざなりになりがちです。その結果、物をこぼしたり、二度手間になってしまったりと、時間のロスが生じます。
たとえば夕食を例に見てみましょう。その日の献立は決まっており、順次調理を進めています。なるべく温かいものをおいしい状態で出したいですので、そこから逆算して作ることになります。
ただ、調理自体がうまくいっても、私の場合、問題になるのは盛り付けの段階です。「あ、このお料理にはこのお皿を出さなきゃ」「いや、こっちかな?」「ここでこの小鉢を使ってしまうと、あの一品は別のお皿かなあ」という具合に、引き出しを開け閉めしてはあれこれ迷ってしまいます。我が家の場合、キッチン道具を必要最低限しか持たないこともあり、適切なお皿を使うことも求められます。
そこでどのようにしたかというと、「完成図を空想すること」です。お料理を作ってお皿に並べるのは、いわば途中の段階。完成図というのは、自分がテーブルに座り、そこで食べている状況です。どのようなお皿が卓上には並び、どのお料理がテーブルのどこに配置されているか。それをざっと頭の中で描いてみるのです。
この習慣を始めてみたところ、完成図から逆算してスムーズにお皿を選べるようになりました。テーブル上に並ぶコップやお茶、お箸やナイフ・フォークなどまで考えますので、いざそうしたものを出した時も、迷わずに並べられます。子どもたちにも瞬時に指示が出せますので、忙しい中手伝ってもらう時はテキパキと動いてもらえます。
英語の勉強でも毎朝のジョギングでもこれは応用できそうです。朝早起きして英語を学ぼうと決めたなら、「何となく」テキストを机の上に置いて、「何となく」辞書を重ねておくよりは、自分が実際に机に向かっている様子を思い描きます。すると「ここに広げるから机は片付いている方がいいかな」「右利きだから辞書は右側の方が使いやすそう」ということが見えてきます。そこで実際のセッティングをした上で就寝し、翌朝目が覚めれば、よりハードルを下げた状態で取りかかれると思うのです。
家の掃除もそうですよね。拭き掃除を思い立って始めたものの、「あ、古新聞が必要」「やっぱり手が汚れるからゴム手を取ってこなきゃ」となると時間のロスにもなってしまいます。
日々の生活の中で「完成図」を考えながら、私も工夫していきたいと思います。
(2013年8月19日)
「スマホ中毒症」 志村史夫著、講談社プラスアルファ新書、2013年
「時間がない~。今日も夕刊が読めなかった・・・」これは私が頻繁に口にしている台詞です。朝刊も手付かずだったのにもう夕刊が配達され、夕食後に読もうと思いきやバタバタしてしまい、気が付いたら寝る時間。いったいなぜこれほど時間が経つのが早いのかと思います。
授業をしていると「先生、勉強時間が取れません」と悲痛な表情で訴えてくる学習者が出てきます。仕事も家庭も忙しく、なかなか机に向かえない。授業はどんどん進んでいき、自分は取り残されてしまう。そんな焦りがにじみ出ています。
けれども本当に時間が圧倒的に不足しているのでしょうか?必死の努力をして隙間時間を作ろうとしてもなお、「忙しさ」という大敵に私たちは連敗しているのでしょうか?
そうではないと私は考えます。現に私自身、体がくたびれているときほどボ~~~~~っとパソコンの前で過ごすことが多いです。見ても見なくても良いページをあちこち覗き、カラー画面から飛び出す写真や動画に疲労回復効果を求めているのかもしれません。けれども背中はガチガチ、首回りも凝ってきます。そうなるとパソコン画面が私たちにマッサージ的癒し効果をもたらしてくれることは決してないということになります。
本書を記したのは半導体の専門家である志村史夫・静岡理工科大学教授です。私たちに限りない便利さをもたらしてくれるデジタルグッズ、とりわけスマートフォンが、知らず知らずのうちに私たちをむしばんでいると警鐘を鳴らしています。副題は「『21世紀のアヘン』から身を守る21の方法」と、一瞬ぎょっとする文字が並びます。しかし読み進めていくにつれ、大人だけでなく若者から幼児に至るまで、スマートフォンを離せなくなっていることがいかに深刻か分かってきます。
家族旅行に出かけて、目の前の家族と景色を味わうはずが、なぜかスマホで撮影した写真を早くフェイスブックにアップしたい。そんな思いに駆られる方はいないでしょうか。家族が「わあ、きれいだねえ」と語りかけているのに、「いいね!」ボタンやコメントが気になってしまう。それでは何のために大切な人と出かけたのかわからなくなってしまいます。
技術に飲み込まれないためにも、あえて本書のような問題提起を受け入れ、自分の中で冷静に判断することも大切だと私は感じています。
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