第545回 教材レベル、どうする?
行きつけのスポーツクラブがコロナでオンラインレッスンを始めました。ZOOMを使ったリアルタイムのレッスンです。自宅でパジャマでもできる(!)手軽さからすっかりハマり、受講を始めてから早や1年以上が経ちました。
中でもお気に入りなのがヨガのレッスン。そのインストラクターさんは説明がとても分かりやすく、間(ま)のとり方も絶妙。指示出しを画面越しに聞きながらじっくりと体を動かしていきます。私など自分の通訳授業ではあれもこれも伝えたいとつい早口になってしまいます。それだけにこの先生のレッスンを通じて「受講生が動きの指示や流れなどを解釈できる時間的余裕は大事なのだな」と「間(ま)」の大切さを痛感しました。
他にもこの先生の素晴らしいポイントがいくつかあります。まず、ヨガのポーズにオプションを取り入れてくださること。人によって体の硬さもまちまちですよね。受講生に決して無理をさせず、「きつければ○○というオプションで」と伝えてくれるのです。私自身、人生でヨガを始めるまでは「体が硬いけどどうしよう?開脚できないけど大丈夫かな?」と不安でした。が、この先生のおかげで大いにハードルが下がったのですね。
ところで私は通訳スクールや学校などで通訳授業を請け負って久しいのですが、よく受講生に伝えていることがあります。それは「中学3年分の英文法を、だまされたと思っておさらいしてみて」ということです。「高校入試直前3週間問題集」のような薄めのテキストをとりあえず解いてみる。簡単な項目ばかり並ぶかもしれませんが、意外と「あれ?」と立ち止まる箇所も出てくる可能性があるのですね。つまり、そこが「積み残したままの英文法課題」という発見になります。
教材のレベルを下げることは恥でも自分の敗北でもありません。むしろ弱点チェッカーの役割を果たしてくれます。難しい教材への取り組みは、基礎土台ができてからで十分間に合うのです。住宅建築においてまずは土台をこしらえてから柱や壁を足していくのと同じです。
では、いきなり難しい教材から始めたらどうなるでしょうか?もちろん、学習者にもよりけりでしょう。かみ砕き甲斐がある内容にチャレンジすることで、突破した暁には大いなる達成感をガッツある学習者なら抱くことができます。けれども私自身は、そうした意味不明レベルになってしまうと、途端にやる気が失せるのです。大学時代のゼミで、難易度の高い英語専門文献を学生たちで分担しながら読みましたが、正直、眠気との闘いでした。
ちなみに私はクイズの「間違い探し」が好きで、フリーペーパーや雑誌などで見かけるとついチャレンジしたくなります。ただ、そのレベルも難易度MAX系のものはパス。先日も新聞で「9つの間違いを探してみよう」と銘打ったものがあったのですが、二つの絵を見比べつつも全く発見できず、あきらめてしまいました。
そうした高難易度は、「取り組んでみようかな」と意欲を見せる人を遠ざけかねません。少なくとも私自身は、指導現場においてハードルを低くしつつも、その教材自体を学習者に合わせながら難易度の緩急をつけたいと思います。
(2022年6月28日)
【今週の一冊】
「南米妖怪図鑑」ホセ・サナルディ他著、ロクリン社、2019年
妖怪と聞いて真っ先に思い出すのは「ゲゲゲの鬼太郎」ではないでしょうか。今回ご紹介するのは南米大陸の妖怪を取り上げた一冊です。
鬼太郎の中にも様々な妖怪が登場しますが、南米の妖怪も多種多様。人の形をしたものもあれば、複数の動物が合体したもの、あるいは想像上の生き物などもいます。本書は国別かつアルファベット順に南米の妖怪を取り上げているのですね。
中でも興味深かったのが、ロビソンという怪物。アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイとブラジルにいるとされています。これらの国々では7人の男兄弟について、「末っ子に注意せよ」という言い伝えがあるのです。なぜなら7番目の男の子は怪物・ロビソンになると信じられているからなのですね。幼少期の末っ子は普通通りの子どもなのですが、大人になると狂暴なロビソンに豹変するのだそうです。そしてキリスト教の洗礼を受けてない者を狙うとのこと。抵抗しようとしても叶わないとされます。
東洋にも似たような狂暴妖怪がいますよね。そう、「丙午(ひのえうま)」です。元は中国の干支から来ていますが、日本では「丙午の女は夫を食い殺す」という俗説が流布しました。60年に1回やってくる丙午の年は出生率が下がります。前回の丙午は1966年で、次は2026年です。果たして新生児の数はどうなるのでしょうか?
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