第543回 ほら、自分だって part 2
高校入学直後、新入生向けキャンプが御岳山で開催され、生徒たちは一芸を披露するというお題がありました。私は当時、人前で話すことがとてつもなくニガテ。舞台に上がって何かをするなど恐怖以外の何物でもなかったので、迷わずグループで寸劇をやりました。一方、学年中の注目を集めたのが同じクラスのとある女の子。おとなしいタイプの子だったのですが、披露した歌は山口百恵の「プレイバックpart 2」。第一声からして、「え?普段控えめの彼女が?すごい歌唱力!しかもあの表情!!百恵ちゃんそのもの!!」と誰もがくぎ付けになったのでした。
という長い前置きになりましたね。今日のタイトルは前週から引き続き「ほら、自分だって」。継続編なのでpart 2と付記した次第です。
「おすすめ教材はありますか?」と正解を求める学習者たち。その一方、掃除や家事の効率的方法を追求すべく「正しいメソッド」を試行錯誤する自分。要は人間たるもの、自分が得意なことなら良い意味でのアバウトさを許すのに、こと不得手なものには、限りなく「正解」を追いかけるのだと思います。
さて、我が家の大学生の子どもたち。現在、それぞれ地方で一人暮らし中。親の方から月末に仕送りをしたり、不定期で差し入れを送ったりします。また、学生生活に必要なものをリクエストされれば、某大手通販会社経由で送ることもあります。
ちなみに今の大学事情は、私が学生のころとは違います。最近はとにかく授業の出欠が厳しく、自主休講などトンデモナイ。課題も多く、学生たちは忙しい。私自身、大学で教えていることもあり、「昔とはずいぶん違うなあ。私のころはガンガンさぼったし、アルバイト三昧だったしなあ」と思うのです。
私の学生時代と言えば、周りを見渡しても「授業を休んでバイトに励む」もアリ。「出席カードに記名したらこっそり後ろの扉から脱出」「最後列でひたすら内職」(以上、すべて経験者)もよくあることでした。一方、今は多くの学生さんたちがまじめに出席。課題はきちんと提出、コツコツと勉学に励み進級しているのです。当時の私など、「とりあえず」4年生まで進級できましたが、教職課程(欲張って社会と英語の2つ履修)の単位が間に合わなくなり、最終学年にして連日大学へ。しかも土曜日まで入れざるを得ないほどギリギリの状態でした。
時代が異なれば状況も変わる。それはわかっているのですが、つい自分時代の価値観を前面に出したことが先日ありました。それは、「差し入れや通販グッズをこちらから送ったのに、『届いたよ』の一言も無い!」ということへの「母親的怒り」(笑)。私の心の中の叫びはこんな感じ:
「ちょっとねえ、こちとら、忙しい仕事の合間に某A通販サイトで検索して、送ったんだけど。『わあ、お母さん、届いたよ。ありがとう!!』とまでの礼状は強制しないけど、せめて『届いたよ』の一言ぐらいあっても良いのでは?私が留学中、親から何か送られたらちゃんと返事してたよ。」
私としては、いくら日本の通販会社がしっかりと手渡しまたは置き配をしてくれるとわかっていても、あるいは、「すぐに取り込まないと盗まれるかもしれない危険性がある海外とは異なる」(←経験者)とは理解していても、やはり「到着したよメッセージ」の一本はあっても良いと思うのです。
内心、「家族にはすぐに反応しない一方で、今の時代、ひょっとしてお友達への『即レス』の方が大事なの??それって順番が違うでしょ?」とヤキモキしているわけです。
こうしたことをモヤモヤと抱きながらも、ふと気づきました。それは、子どもたちから起こりうるであろう反論です。具体的には、「おかーさん、そうは言うけどさ、僕たちが幼い頃、保育園に預けといて仕事三昧だったでしょ?『それって順番が違うでしょ?』って思わなかったの?」
子どもたちが果たして今の時点でこう思っているかは不明(露ほども思っていないかも)。ただ、過去の私自身を振り返り、「ほら、自分だって」と痛感したのでした。
働く母の懊悩、ということにします。
(2022年6月14日)
【今週の一冊】
「古典の効能」寺田真理子著、林望監修、雷鳥社、2021年
高校時代、現代文が苦手だった私にとり、古文漢文は唯一「点を稼げる暗記科目」でした。受験だけを考えていたがゆえに、作品を味わうことなく、そのまま年月が経っているのですね。
そのような中、今回手にしたのが古典の「効用」を説く一冊。著者は読書でうつを克服され、現在は日本読書療法学会会長を務める寺田真理子さん。本ハイキャリアの「あなたを出版翻訳家にする7つの魔法」でもおなじみです。一方、監修は「イギリスはおいしい」で知られる林望先生です。
本書には枕草子、古事記、そして万葉集から作品が取り上げられ、解説がなされています。古典というと難しい印象ですが、読み進めるとそれぞれの句が具体的にどのような情景を描いているか想像できます。
いにしえの作者たちも、今の私たち同様、日々の中で悩んだり喜んだりしています。ユーモアのセンスや異性に対する感情や思わせぶりなど、「ことば」を通じて表しているのですね。古典に対して私たちが設けがちなハードルが、本書を読むことでグッと下がります。
それでも古文は難しそうという方は、ぜひ「今の生活に役立つヒント」の部分だけでも読んでみてください。生きるうえで私たちが古典から学べるポイントはたくさんあるのですから。
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