INTERPRETATION

第126回 で、教訓は?

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

私は手帳にやることリストを書いて毎日過ごしています。自分のモチベーションを高めるために、項目の左側に四角いチェックボックスを設け、実行したらチェックを入れます。一日の終わりにどれだけ達成項目があるか一目で分かります。大いに励みになりますが、その一方でチェックが少ないと不完全燃焼の気分です。

けれども人間はロボットではありません。調子のいい日があれば、今一つというときもあるでしょう。私の場合、睡眠不足が日々の行動に大きな影響を及ぼします。やる気がわかなかったり、失敗続きだったりというときはおおむね寝不足が原因です。

ただ、「ちゃんと寝てないから仕方ない」と開き直るわけにもいきません。そこで何か失敗してしまったら、「で、教訓は?」と唱えるようにしています。その際、「3つ挙げること」を自分に課しています。

たとえば先日、夕食の支度をしていたとき、キッチンカウンターからトマトジュースを派手にこぼしてしまいました。お腹は空いているし、早くお皿は並べたいしと状況は逼迫しています。でも目の前にはドロドロの果汁が散乱しているのです。さあどうするか?まずはとりあえず落ち着いて後片付けです。

床や壁を拭き終えたら早速心の中で「で、教訓は?」と唱えてみました。

まず、こぼしてしまった原因から。

1.私自身、お腹が空いていたので早く食事にしたかった

2.焦るあまり、自分の動きが雑だった

3.カウンターにたくさんお皿をのせすぎていた

理由の次は「教訓探し」です。

1.お腹が空いている時は、少しでも良いから小腹を満たすこと

2.急いでいるときほど動きはゆっくりと

3.こまめにお皿をテーブルへ移すこと

このような感じです。

もちろん私も人間なので、教訓を得てすぐに直せるとは限りません。けれども「起きてしまったこと」を悔やんでも次に進めないので、前向きになれるよう「で、教訓は?」と唱えるようにしているのです。

これは子育てにも英語学習にも応用できそうです。子どもを叱るときも、行為そのものを注意する以上に、「じゃあ、どんな教訓があると思う?」と尋ねるようにわが家ではしています。もっともうちの場合「今度から気を付ける!」の一言しか返ってこないこともあります。そのようなときは「気を付けるって具体的にどういうこと?どう動けばいいのかな?」と突っ込みます。子どもなりに考え、それを次につなげていければと思います。

英語学習も同じです。TOEIC試験で失敗したというときも、そのことを悩んでも事実は変わりません。なぜうまくいかなかったか、次にどうしたら改善できるか。それは自分の弱点を直視することにもつながります。痛いところをあえてじっと見つめることが、英語力向上のカギを握ると私は思っています。

(2013年8月5日)

【今週の一冊】

「3年で7億稼いだ僕がメールを返信しない理由」 小玉歩著、幻冬舎、2013年

どうやら私の読書癖というのは偏っているらしい。手当たり次第に本を購入して超速で読む。かと思いきや、ある時を境にペースが落ち、本は手に取らず新聞やフリーペーパーばかり。活字そのものは追い続けているので、読むこと自体は好きなのだろう。

乱読ばかりしていると「人生は短い。あれこれ浮気するよりも、『古典』を読むべきだ」という声が頭の中でささやく。名著と言われる本には久しくご無沙汰だ。このまま年をとって良いのか。人間として正しいことを学び、それを指針にして生きるべきなのではないか。そのように思ってしまい、本から離れてしまうのかもしれない。

するとどうなるか。私の場合、どうも体調不良になる。寝込むほどではないけれど、どんよりしたり億劫に思ったりしてしまう。もちろん、通訳や指導の場では「お仕事モード」で元気になるのだけれども。

そのような「不調」を救ってくれるのは、やはり読書だ。しかも手軽に読めて元気になるビジネス書。最近仕事が立て込んでいて、さらにフェイスブックばかり閲覧していてくたびれてもいた。自分のペースが確立できず、周囲からの情報洪水でアップアップしていたのだ。

今回ご紹介する本は「メールを返信しない」というタイトルに惹かれて購入した。著者の小玉氏は自らの人生を立て直すにあたり、人脈や仕事などを大幅に整理していった。その体験談が本書には綴られている。メールを返さないというと一瞬驚くが、「自分の貴重なエネルギーを不本意なところに使うべきでない」というのが本書で一貫した主張である。

自分のペースを取り戻したい人、本当に大切なことは何かを考えるきっかけが欲しい人にお勧めの一冊。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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