第541回 学習に欠かせぬ自己満足感
幼少期に暮らしていたイギリスの学校で必修だったのがフランス語。当時の私は英語すらおぼつかなく、フランス語もさほど上達せぬままでした。そこで大学時代の第二外国語はフランス語を履修。ただ、語学の常として、「使わなければあっという間に錆びる」のですよね。さほどモノにならぬまま、年月だけが経ちました。
今から10年ほど前のこと。あきらめの悪さ故、またまたフランス語に着手。仕事が忙しかったので、通信講座をとりました。これが私にはとても合っており、最終教材まで進めることができ、仏検にもチャレンジしました。楽しい学習でした。
中でも意識したのが、以下の3つです:
1 通信講座の教材に集中する
2 他の教材(例:ラジオ講座や市販の教材)には手を出さない
3 紙の辞書を使いこなす
でした。あちこちに注意を向けてしまうと、結局散漫になってしまうと思ったからです。
これは私にとってベストな方法でした。何しろ世の中にはごまんと教材があふれています。書店に並ぶテキストのみならず、動画サイトなどに手を出せば大量の教材や学習法にありつけるでしょう。そうなると、「うーん、今の私のやり方で良いのかしら?」という迷いが生じます。それでは目の前の学習に焦点を合わせられなくなるのです。よって上記3つを守ることにしました。
とりわけ非常にやりがいがあったのが上記の「3 辞書の使いこなし」でした。せっかく購入したので、まずは編集者の「まえがき」から読みました。編者や出版社がどのような思いでこの辞書を作ったかが綴られています。電子辞書やネット辞書主流の昨今、紙辞書を使う人は大幅に減っています。でも表紙をめくると、どの辞典にもまえがきがあり、執筆担当者たちの熱い思いがあふれているのですね。私はまえがきを読みながら、「今日からフランス語学習開始です。この辞書と仲良くして頑張ります!」と思わず心の中で宣言したほどでした。
さて、こうして紙辞書とのお付き合い開始。冒頭には辞書の使い方が凡例と共に説明されています。ここをしっかり読むことが、辞書とのより良い付き合い方に直結します。せっかく購入したのですから、この部分を通読し、辞書に出てくる記号や説明を把握しました。ここまでがウォームアップです。
そして日々の学習では、通信講座教材で不明単語に遭遇したら即辞書へ。調べた単語には下線を引きました。これをコツコツ続けていると、やがて辞書は「膨らんで」きます。膨らむとはすなわち「ページをめくったことにより、空気が入り込む」ということ。それまでくっついていたページ同士が離れ、ペタンコだった辞書が膨らみを増してくるのです。こうなると「勉強した感=達成感」でうれしくなります。
一方、辞書の巻末にある不規則動詞変化表にも注目。フランス語には不規則動詞や形容詞の独自のルールなど、たくさんの文法法則があります。そちらもしっかりチェック。新しい文法項目に出会うたびに巻末をめくり、印をつけていきます。紙辞書一冊で、基礎的な文法もしっかり把握できる構成になっているのです。
このようにして継続したフランス語学習。時間はかかりましたが、おかげさまで最終教材までたどり着くことができました。ずっと私の伴走を務めてくれた紙辞書は書き込みや下線、蛍光ペンなどでいっぱいです。自らの手を動かした結果、残された跡が当時の自分の頑張りを褒め称えてくれるようで幸せな気分になります。
こうした「自己満足感」が、語学学習では自分を突き動かしてくれると思うのです。
(2022年5月24日)
【今週の一冊】
「ミュージアムグッズのチカラ」大澤夏美、国書刊行会、2021年
ロンドンで留学時代を過ごしていた1990年代のこと。大学院の勉強がハードでコンサートや美術展へと現実逃避していました。そのとき目にしたのがショップの充実度。コンサートホールには音楽関連グッズが並び、美術館には企画展にちなんだ商品やアート系のアイテムがそろっていたのです。当時はまだ日本のミュージアムグッズがさほど充実していなかったため、日本もイギリス並になってくれたらと思ったものでした。
あれから年月が経ち、今や日本のミュージアムグッズはバラエティに富んでいます。企画展の場合はキャラクターとのコラボも見られますし、そこでしか買えない一品にも魅了されます。
本書が紹介しているのは日本全国のミュージアムグッズ。日本の北から南まで実にたくさんの施設があることに改めて気づかされます。本書はオールカラー、著者がセレクトした商品が紹介されています。
中でも印象的だったのが、京都水族館のオオサンショウウオのネックピロー。お顔がすみっコぐらしのとかげに似ていて愛くるしいです。一方、上野動物園の「ほんとの大きさ パンダの仔」も素晴らしい!赤ちゃんパンダの重さ3種類があるのです。一番小さいのは何と147グラム。生後2日目の体重です。生まれたばかりのパンダに思いをはせることができます。
博物館経営論を専門とする著者の解説も読みごたえ大です。
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