第533回 ゴホウビの工夫
通訳業務というのはなかなかハードです。私自身はこの仕事をこよなく愛しているのですが、いかんせん、体力的なしんどさは否定できません。人間の体は20代をピークにスタミナも下がっていきます。ゆえに自分の体力を見極めながら、うまくバランスをとって仕事をする必要があるのです。
それこそ中学高校時代は、試験前の徹夜一夜漬けなど厭わないものでした。大学時代はサークル仲間と夜通しボーリング&始発で帰宅などしていましたが、今では考えられません。社会人になってからは、40度近い高熱が出たものの、どうしても仕事を休めず、気合で通訳現場へ。でもなぜか夕方には解熱していたこともありました。
そして現在。
放送通訳では目の前のテレビスクリーンを見つつ、頭にはヘッドホン、30分間ひたすら同通をしています。よって頭頂から腰までガチガチに固まります。かつてはマッサージや鍼などと無縁だった私も、今では複数のお店のお世話になっています。A店のスタッフさんが定休日であれば、B店に行く、という具合でバックアップ策も必須。コロナで海外旅行が叶わなくなった分、「マッサージの頻度を上げても良いよね」と自分で自分を納得させています。
他にもモチベーションアップのために色々と導入しています。たとえば以下がその一例です:
1 元気になる服を着る
私の場合、通訳現場で違和感がある服装をしていってしまうと集中しづらくなります。よって着心地の良いものであることが大前提。さらに色も自分にとって元気が出る明るめのカラーを選ぶようにしています。
2 早めに現場到着してカフェへ
通訳現場には1時間以上前に着くようにしています。そのお目当ては「現場近くの某大手カフェチェーン店に行くこと」。お店のアプリを入れているので、ポイントをためたり、お店スタンプ集めをしたりと楽しんでいます。自宅と現場の間にカフェを挟むことで、仕事マインドをオンにできます。
3 個包装ドリップコーヒー
放送通訳現場にはウォーターサーバーがあり、熱いお湯も出ます。最近凝っているのは、個包装ドリップコーヒー。最近は色々な種類がスーパーに並びます。また、スイーツ店やパン屋さん、ミュージアムショップなどにもオリジナルバージョンが。量販店のモノより割高ですが、限定デザインを味わうのも気分が上がります。
4 文具も元気の源に
実は文具も私にとってやる気につながります。愛用しているA5方眼ノートは某カフェ店のコラボデザイン。桜の柄で今の季節にぴったりです。頑張った日にはシールを貼るのも楽しい作業。ご褒美シールの効用は大人にも大いに効き目アリ。
というわけで4つほどご紹介しました。でも、私にとっての一番の励み。それは通訳業務終了後のノート見直し作業です。「うわぁ、今日もこんなにたくさんの未知単語に出会えた。嬉しい!!!」と、初めて出会う単語やフレーズが並べば並ぶほど、達成感を抱けるのです。
この仕事の醍醐味です。
(2022年3月22日)
【今週の一冊】
「愛されなかった私たちが愛を知るまで―傷ついた子ども時代を乗り越え生きる若者たち」石川結貴、高橋亜美著、かもがわ出版、2013年
ニュースでは子どもたちを巡る悲しい話題が見受けられます。大人である親は我が子を守るべきはず。なのにそれが親自身の抱える問題が未解決であるがゆえに、矛先が子どもに向かうことがあります。そして子どもが犠牲になってしまうのです。それは目に見える肉体的な傷や言葉の暴力による精神的な痛みであったりします。
著者の石川氏は家族や子育てをテーマに取材をなさっており、高橋氏は自立援助ホームのスタッフをされています。本書には、二人が出会った子どもたちの苦しい胸の内が明かされています。
虐待や精神的圧力などと無縁で育った方にとっては、本書の内容は衝撃的なことでしょう。けれども、日本、いや、世界のどこかで今なおこのような苦しみのさなかに生きる子どもたちがいるのも事実なのです。そこから目を背けるのではなく、これが未来を担う子どもたちが今、置かれている深刻な状況であることを、社会は自覚せねばなりません。
特に印象的だったのは高橋氏が最後に記した以下の文章でした:
「悲しいとき、苦しいことがあったときは、大丈夫だよと寄り添ってもらえること
暴力や、ひどい言葉で傷つけられないこと
あるがままの自分でいられること
あるがままの自分を大切にしてもらえること」(p144)
こうした考え方は、たとえ子どもが何歳になろうと、親子関係では大切だと私は思います。なぜなら、私自身、人生の半分を過ぎた今なお、上記の引用とは正反対の思いを残念ながら味わっているからです。
親子関係の困難さにより心を痛めるのは子どもです。高橋氏によれば、そのような境遇は子ども自身が「みずから選んで抱えた困難ではなく、抱えさせられた困難」(p156)です。一人でも多くの子どもが親子関係から生じる困難に自罰的にならぬよう、また、社会全体がこの問題に対して寄り添いの姿勢を見せられるようになることを、私は心から願っています。
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