INTERPRETATION

第526回 電話で聞くべし教訓

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

通訳の仕事では様々な事前予習が必要です。資料の読み込みやネット検索など、業務日当日の拘束時間より事前勉強時間の方が莫大になります。

長年この仕事を続けてきたためか、自分なりのリサーチ方法は確立されています。資料の読み方や検索の方法、Googleの効果的な使い方などにおいてです。

ただ、「通訳者的リサーチ法」がすべてに応用できるのではない、ということを先日痛感しました。

役所から配布された某書類。記入用紙は複数枚あり、要提出関連書類がたくさんあります。あまりにも細かいので、受け取ってから数か月放置!まとまった時間が取れた日にようやく着手したのでした。

改めて説明用紙を読むと、何を記入すべきか、どういった関連書類が必要かがわかります。そこで最初にとった行動は、「準備しやすい関連書類をそろえること」でした。まずは身分証明書の写し。我が家のプリンタ複合機でマイナンバーカードの両面をコピーしました。また、戸籍謄本も必要とのこと。こちらはコンビニでマイナンバーカード経由で申請しようと決めて、カバンにマイナンバーカードを入れました。取得は日を改めて、ということで。

さて、いざ用紙の記入開始。

説明書には「記入方法が動画でわかります」とあり、QRコードが。早速スマホでかざして動画視聴開始。確かにわかりやすいのですが、うーん・・・どちらかと言うと、件の説明用紙をコンパクトにして口語で読み上げただけ。でも無いよりは助かるので、そのまま視聴し、適宜停止ボタンを押しながら記入していきました。

が!

途中まで書いて、そこから進めなくなってしまったのです。理由は、用紙にある説明と私の現在状況に違いがあったからでした。「困ったなあ。このまま中途半端な用紙をしれっと郵送しても受け付けてもらえないのは目に見えているし。あ、そうだ!こういう時こそ検索よね」

と思い、Googleで書類名を入力し、ワンスペース離して「書き方」と入れてみました。しかし、どのサイトも似たような感じ。私が理解できるような容易な説明ではありません。

そこで今度は「書き方 複雑 説明」と追加。私同様に「わーん、複雑でわからなーい。詳しい説明のサイトが欲しい~!」という人を意識してのことでした。

でも今イチ。

次はグーグルで「画像」や「動画」で限定してみるも、それでもよくわからず。「ああ~、このままでは何も進展しない。どうしよう??」と思いつつ、ふとカバーレターを見ると役所・担当部署の直通電話番号が。

「なーんだ、最初からここへ電話すれば良かった!」

と早速電話。一通りこちらの状況を説明し、先方のお話を伺った結果わかったこと。それは「どうやら私はその書類提出者の範疇外であった」ということでした。チャンチャン!

この日、感じたこと:

*通訳者的リサーチ法ですべて取り組もうとしてはならない
*電話連絡できるなら、まずは問い合わせるべし

でした。

午前9時45分から始めて電話を切ったのが午前11時15分。こんなこともあろうかと、ノートに開始時間を書いておいたのでした(笑)。大学の1コマに相当する時間を、この用紙と格闘し、非常に有意義な教訓を得たのでした(猛省)。

(2022年2月1日)

【今週の一冊】

「抱きしめてあげて 育てなおしの心育て」(渡辺久子著、太陽出版、2005年)

数年前に読んだ「子どもを信じること」(田中茂樹著、さいはて社、2011年)。この本が私の価値観を大きく変えてくれました。私はこれを機に自分の子育てを省みて、以来、試行錯誤の日々が始まったのです。

そのような中、出会ったのが今回ご紹介する一冊です。著者の渡辺久子氏は乳幼児精神医学の専門家として数多くの臨床の場で子どもたちを診てきました。診察室に来る子どもたちはどの子も何かしら心に傷を抱えています。それを引き出して一緒に考えていく。さらに重要なのは、その主たる担い手である母親へのケアでした。

親子問題の多くは3世代以上前からさかのぼると言われます。母と子の関係悪化の背景には、その母と実母(子どもから見た祖母)の問題が未解決ということが挙げられます。子どもが心を病めば、それがいずれは次世代へと負のバトンリレーのごとく受け継がれてしまうのです。どこかで誰かが断ち切らなければ、問題は永遠と持ち越されたままとなってしまいます。まるで預金の負債が通帳上でどんどん膨れ上がって繰り越されるかのように。

子どもも一人の人間である以上、教則本どおりになど育ちません。けれども、衝突をおそれて表面的に関わってしまったり、あるいは、親が自分の考えを子どもに押し付けようとしたりしまえば、本当に理解し合うことはできないのです。そうした状況はやがて子どもにあきらめと絶望的な気持ちを抱かせてしまうと私は思います。

渡辺氏の文章を読むと、子育てのやり直しに遅いということは無い、ということに気づかされ、励まされます。本書で紹介される症例を読むと、やり直しはできるのだと思わされます。

共働きが増えた今、母親だけでなく父親にも祖父母にも読んでほしい一冊です。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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