第116回 ほんの一工夫
通訳の仕事を通じて、ちょっとした習慣が身に沁みついてきました。わずかなことではあるのですが、「助かった!」と思える点もあります。具体的にご紹介いたします。
1.資料にはページ番号を入れる
たとえば事前に大量の資料を頂いた際、最初に通し番号を振っていきます。私はたいていページの右下に入れることが多いのですが、それは全体を見渡した時に目につきやすい位置だからです。番号を振ったら、合計のページ数も入れます。たとえば「20ページの資料の1ページ目」には「1/20」と書きます。
通訳の本番中、このページ番号を見ながら、あとどれぐらい残っているかがわかるので便利です。
2.日付には「年」を入れる
これはある科学者の書籍を通じて学んだことです。その先生によれば、「2013年」「1985年」のように「年」を入れることで、「何年の研究なのか」がわかるとありました。
私はプライベートで出すお手紙にも、子どもの小学校の連絡帳にも「2013年」と入れています。慣れないうちは手間に思えたのですが、習慣化されると逆に入れないのが不自然に思えてきました。後に見直す際など大いに助かっています。
3.名前を書く
こう記すとまるで「学用品にお名前を付ける」という印象ですが、私は配布された資料などに記名するようにしています。通訳現場で渡される資料や、自費で参加するセミナー、あるいは保護者会で配られるプリントなど、私の場合、紙の右上に名前を書いています。通訳現場には複数の通訳者がおり、机の上も資料でいっぱいになりますので、自分の名前を書いておくと紛失の心配がありません。
4.裏紙にはバツ印を付けておく
我が家には大量の裏紙があります。破棄してしまうのはもったいないので、プリンタの下書き用紙として使っています。その際に大切なのは不要の面に大きくバツ印を付けておくことです。そうすることでどちらが本来使うべき面かが分かるからです。
以前、ある業務で裏紙に印刷された資料を渡されました。ところがどちらも似たような文章にレイアウトで、正しい面がわからなかったのです。混乱を防ぐためにも、とにかくバツ印!です。
5.仕上がりを意識して作業を行う
私は指導の現場にもいるのですが、教材を印刷するとき、次のことを意識しています。仮に同じ日にAクラス(25人)、Bクラス(38人)、Cクラス(14人)の授業があるとしましょう。時間はA→B→Cクラスの順で進んでいきます。
教材をコピーする場合、合計の必要枚数は77枚です。一気に77枚分を印刷し、あとで25枚、38枚、14枚と分けることもできます。けれどもあらかじめ必要な順番は分かっていますので、私の場合、14枚→38枚→25枚の順でコピーします。わずかなポイントかもしれませんが、私にとっては数え間違いも防げるので、安心できる方法です。
実はこうした「ちょっとした工夫」がわかると、単調な作業も楽しくなります。みなさんの参考になればうれしいです。
(2013年5月20日)
「『また会いたい!』と言われる女の気くばりのルール」里岡美津奈著、明日香出版社、2012年
著者の里岡さんはこれまで全日空のVIP担当CAとして活躍なさってきた。皇室の方々や政府要人など、CAのトップとして経験を積んでいらっしゃる。本書は仕事を通じてとらえた気くばりやサービス全般について記された一冊である。
通訳者も、気くばりや機転が必要とされる。A言語をB言語へ忠実に訳すというだけでは不十分なのだ。聴衆が何を求めているか、クライアントはどのようなアウトプットを期待するかなど、常に全体像をとらえ、その場その場で最適な通訳をしていく必要がある。
印象的な個所がたくさんあった。たとえば、「自分が商品である」と意識することなど、まさにそうだと思う。自分の英語力や日本語力、知識を深めていくという点から見ても、通訳者は勉強の連続だ。話し方や立ち居振る舞いなど、「見られる」立場にいる通訳者にとって、ヒントになる箇所は多い。
時間との闘いゆえ、ついつい焦ったりせっかちになったりしがちなのが通訳の仕事。たとえ限られた時間の中であっても、そうした雰囲気を滲み出さない工夫も大切だ「せっかちな雰囲気を出してはいけません」という一言が身に染みた一冊であった。
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