第115回 叱られてからのリカバリー
このコラムは毎月4回、月曜日にアップされています。5週目はお休みです。また、昨日は祝日でしたので、本日火曜日の更新となりました。みなさんは大型連休をどのようにお過ごしになりましたか?
さて、4月から新年度が始まりましたね。新・社会人や通訳者デビューを果たしたみなさんは、新しい環境にもそろそろ慣れてきたことでしょう。一方では緊張感がふっと解けて疲れが出てしまったり、思いがけず仕事で注意されてへこんでしまったりという方がいらっしゃるかもしれません。そこで今回は「叱られてからどのようにしてリカバーするか」を中心にお話いたします。
1.最初は心の中で反発しても良い
上司やお客様からきつく注意されると、心臓がバクバクしてしまいますよね。「確かにミスをしてしまった。でもあそこまで言わなくても・・・」という気持ちが生じるかもしれません。そのようなとき無理に「自分が悪かったんだ」といきなり猛省モードに入っても、心の中では注意をした相手への反抗心が残ったままになります。
みなさんは「悲嘆のプロセス」という言葉をご存知ですか?人間は愛する人を亡くすと、状況を否認したりパニックに陥ったりします。そうした一つ一つを否定せずに受け入れることで、少しずつ悲しみから回復できるのだそうです。
叱られたときというのはこうした悲嘆状況と少し異なります。とは言え、まずは上司やお客様に対して心の中で反発心が出たならば、それをありのまま受け入れても良いと私は思います。大事なのは、そこから次にどう展開するかなのです。その方法をこの後ご説明します。
2.自分はどう感じたかをじっくりとらえる
上記1のプロセスで「ウチの上司はいつもきついんだから」「まったくあのお客さまったら・・・」という「当初の反抗心」は明らかになりました。次にやるべきことは、「自分がどう思ったか」を振り返ることです。「ああいうきつい言い方は普段されない分、すごく傷ついた」「心拍数が急上昇したのがわかった」といった具合です。
たとえば通訳業務でクライアントから注意された場合、「そこまで言うならばもっと資料を事前にいただきたいのだけどなあ」というケースもあることでしょう。「先方の言い分も分かるけれど、こちらも最善を尽くしたのに」という感じで、自分が感じたことを振り返ってみましょう。
3.気持ちをノートに書き出してみる。
ここまでのプロセスをぜひノートに書き出してみて下さい。なぜ「手書き」で「紙に書く」のかと言いますと、紙の場合どんどん気持ちの流れをフローチャートのように広げて書くことができるからです。思いつくままに自分の考えをお絵かきのごとく書き足すだけでも、モヤモヤしていたものが少しずつ消えていくはずです。
最初のうちは書き殴るような感じかもしれません。けれども自分の気持ちが落ち着きを取り戻すにつれて、自分の字もゆったりとしたものになってきます。
4.できれば自宅に戻る前に振り返りを済ませる
「嫌なことがあったから早く家に帰りたい」という気持ちも分かります。疲れた体を引きずり、帰りの車内であれこれ悶々と考えて家路につくこともあるでしょう。帰宅直後に気持ちをスパッと切り替えられるのであれば、まっすぐ帰ることに異論はありません。けれどもなかなか割り切れないという場合は、嫌な感情を「お持ち帰り」しない方が得策だと思います。
お気に入りのカフェに立ち寄り、振り返り作業をするだけでも、少しは気持ちが晴れてくると私は考えます。昔は自宅近くの最寄り駅に「駅前書店」があり、そこで立ち読みをするだけでもリセットできました。今は書店がない分、どこかで振り返り作業をする必要がありそうですね。
5.気分転換は健康的かつ建設的に
「自分を省みる作業をしたけれど、まだ気持ちが晴れない」-そんなときは気分転換が必要です。ただ、意識したいのが「健康的で建設的な方法」を実践するという点です。
私は以前、しんどいことがあると自宅でぼーっとネットサーフィンをしたり、ついつい食べ過ぎたりということがありました。それできちんとリセットできれば良いのですが、不健康な方法では余計落ち込んでしまうのですね。「PC画面を数時間も見てしまった」という自責の念には肩こりというオマケまで付いてきます。ご褒美スイーツも量を取りすぎれば体重計が正確に教えてくれます。
映画を観る、スポーツクラブに出かける、音楽を聴くなど、自分の心に本当の栄養を注いでくれるような方法を見つけ出すことが大切です。
いかがでしたか?今回は叱られたときのリカバー法をお話ししました。
最後に大切なことを一つ。なぜ人が叱るか。それは相手に期待しているからです。たとえばクライアントが通訳者に注意するということは、それだけクオリティーの高いものを求めているからです。「叱ってくれたからこそ、自分は弱点に気付くことができたのだ」と思えるようになれば、きっと前進していけるはずです。ポジティブにとらえることで、人間として成長し続けたいと私自身は考えています。
(2013年5月7日)
「あなたがピアノを続けるべき11の理由」飯田有抄(構成・解説)、ヤマハミュージックメディア、2011年
幼稚園から高3まで私はピアノを習っていた。両親の転勤で海外にいたころは、ことばもできず、ピアノだけが自分の存在を認めてもらえる手段だった。練習にも精を出し、高校時代になるとラフマニノフやドビュッシーなどの作品にも挑戦した。
ところが大学入学後、仲良くなった友達からクラシックギター部に誘われ、あっさりとピアノを辞めたのである。クラシックギターは爪で直にはじく楽器である。よって右手の爪だけは伸ばさなくてはいけない。「まあ、15年もピアノをやったから、そろそろいいかな」という思いもあってギターに転向した。
そのギターも大学2年の終わりにあっさりと退部し、以後はバイトに明け暮れた学生生活だった。ピアノも再開せず、ギターも中途半端。楽器人生から降りてしまったのである。
私のピアノストーリーはこのくらいにして、今回ご紹介するのは、各界で活躍する方々がピアノについて語った一冊。ピアニストを始め、哲学者や数学科教諭、落語家など、本業を他に持つ方も掲載されている。
本書を読み進めていくと、非常に英語学習に通じるところがある。楽器というのは、そもそも義務感でイヤイヤ取り組むものではない。お休みしても良いし、再開したいという気持ちが生じたらまた練習すれば良い。掲載されている方々がそうしたことを唱えている。
どのようにすれば練習に取り組みやすくなるかといったヒントも紹介されている。「ピアノ」という言葉を「英語」に置き換えて読み進めてみるととても合点がいく。どの世界も真実はひとつなのだ。
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