INTERPRETATION

第509回 自分で確かめて

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

昔から片付けが好きな私にとって、仕事の合間に整理整頓や断捨離関連のサイトを見るのは息抜きです。そうしたページをよく眺めているからなのでしょう。広告でも頻繁に表示されます。おそるべしAI、ですよね。

先日表示されたのは、洋服の片付けに関する広告でした。読むと、「年を重ねたら女性は黒を着ない方が良い」「服の見極め方」といった文言が目に入ってきます。面白そうなので読んでみました。

前者に関しては、女性の場合、年齢とともに肌もくすんでくるので、黒よりも鮮やかな色の方が良い、というものでした。確かにイギリスに暮らしていたころ、ご年配の方々は真っ赤なコートや口紅、華やかな色のスカーフなどを身につけていましたね。

アメリカのペロシ下院議長も、画面に登場するたびにそのファッションの鮮やかさに私など目を奪われます。フランス出身のラガルドECB総裁、イギリスのメイ元首相や最高裁のヘイル判事などもとてもおしゃれです。

私自身、若い頃はモノトーンなどがシンプルで好きでしたが、自分が身につける色によって気持ちも大いに変化するということを体験してから、なるべくその日の気分に合うような色選びをしています。また、「曇天や雨天時にはあえて明るい色を。晴天時には暗い色もOK」という方針も維持しています。

さて、自分のワードローブを見てみると、年月とともに鮮やかな色のアイテムが増えてきたように思います。ただ悲しいかな、最近はアースカラーやパステルカラーが流行しているようです。よって、店頭でもなかなか自分好みの色が見つかりません。

そこで頼りになるのがインターネット。勝間和代さんが推薦するワンピースの通販サイトでお手頃価格の品物を見つけたり、バリエーションの多いサイトで好みの一点を探したりするようになりました。

ただ、先日、あることに気づいたのです。それは「出番の多い服と少ない服」についてでした。

頻繁に着るアイテムというのは、自分のシルエットが奇麗に見えたり、色が自分好みだったり、着ていて素材が心地よかったりというものなのですよね。安心して着用できれば、洋服のことを忘れて目の前のことに集中できます。それが仕事や人間関係などにも自信をもたらしてくれると思うのです。

一方、なかなかお目見えしない服の場合、サイズが微妙に合わなかったり、色合いがイマイチだったり、シルエットが好みでなかったりということがあります。着心地が良くないと、それだけで気が散ってしまうのです。たとえば、「肩がずり落ちてきてしまうジャケット」「Vネックシャツなのに片方の鎖骨だけやたら見える」「首周りがチクチクする」といった具合です。こうなると、目の前のことに集中できません。

そこで、クローゼットをざっと見渡し、以下の作業を行いました:

1.明らかに着ていない服は手放す
2.ハンガーのフックの向きを向こう側にする(取り出しにくくする)
3.一度でも着たらフックは手前側にする(取り出しやすい方向)
4.このようにして数週間様子を見る。フックの向きが変わらなかったものは、自分にとって今一つの服であると結論付ける

ざっとこのような感じです。今はちょうど2週目になります。少しずつ向きの変化が出てきて面白くなってきました。

ちなみに「1.明らかに着ていない服」を並べてみたところ、共通点がありました。それは、「試着をせずに購入した」ものばかりであったことでした。「急いでいたので、試着室に行かず、即会計した」「エキナカの店舗で試着室がなかったので、そのまま購入した」「ネットでサイズを確かめて買ったものの、微妙に私の大きさとは異なった」という具合です。

なお、上記に書いたワンピース専門サイトで購入したアイテムはどれも正解でした。おそらくワンピースの場合、着丈さえ合っていれば、あまりハズレは無いように個人的には感じます。一方、トップスやスカート、パンツなどは、身体のラインやお腹・腰回りが影響しますので、やはり試着した方が良いのでしょう。

私自身が学んだ教訓:それは「試着して自分で確かめる大切さ」です。試しに着てみれば、勘でわかるからです。そうした直感を大切にしていくのも、良き消費者として大事であると思います。

ちなみに英語学習や通訳訓練も同様です。テキストやアプリ、学習サイトなど沢山ありますが、やはり自分で見たり体験したりしてみてこそ、その方法が自分に合うか否かがわかります。星の数も参考にはなりますが、それ「だけ」に振り回されない方が、結局のところ、時間もお金も節約できるように思うのです。

・・・と考えると、これは人生全般にもあてはまるかも。人間関係にせよ、仕事にせよ、まずは自分で体験してみる。ダメだったら立ち止まってみる。そして何が違和感になっているのか考えてみる。そしてそこからまた一歩踏み出せば良いのでしょうね。

(2021年9月28日)

【今週の一冊】

「ズボラ主婦・フニワラさんの家事力アップでゆるゆるハッピー!!」藤原千秋著、能野友紀子画、オレンジページ、2015年

今回ご紹介するのは、住宅メーカーで営業職経験のある藤原千秋さんの一冊。通称フニワラさんの視点はどれもとても前向きで、読んでいて元気が出てきます。ナチュラルですっきりした生活を志すも、家族が増えていけば、それが実現できるとは限りませんよね。そうしたせめぎ合いについても本音が綴られています。大事なのは、「家族皆がハッピーであれば、多少のモノの多さや汚れなどにも目をつぶれる」ということ。そのバランスなのだと気づかされました。

中でも開眼したのは、洋服の整理方法。「あぶれた服はまさかのゴミ袋収納でしのぐべし!」(p30)は誰でもすぐにできるライフハックです。袋であれば圧縮できますし、ワンシーズン寝かせてみて着用しなければ、そのまま手放すこともできます。同ページに出ていた「自分で洗えない服は思い切って処分すべし!」もナルホドと思いました。

また、大きな学びとなったのが「プラスチック」について。フニワラさん同様、私もプラスチックに抵抗があり、バスケットやナチュラル素材のものを揃えていました。けれども、籐のカゴの最大の難点は「ホコリ」。フニワラさん曰く、最近のプラスチックは材質や手触りも色々あり、しかもシャワーでザーッと洗うことができます。ホコリだらけの収納バスケットよりも衛生的ですよね。

というわけで私も少し考え方を改めていきたいと思います。昨今のプラスチック問題は、たとえばペットボトルのように無制限に買っては捨ててを繰り返して増やすことが環境破壊につながるわけですので、吟味して大切に使うのであればプラスチックも敵認定から解除してあげられるように思います。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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