INTERPRETATION

第495回 迷・勉強法

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

毎週日曜日に放映されている「ドラゴン桜2」を観ています。一作目は見ずにいきなりパート2から入ったのですが、それでも十分楽しめます。阿部寛さんの熱演も素晴らしいですし、子役から成長した加藤清史郎君も良いですよね。子ども店長以来しばらく見かけないなと思っていたら、ロンドンの全寮制に留学していたとのこと。そのきっかけとなったのが、ミュージカル関連の仕事だったそうです。通訳者を介して英語による指導を受けたそうですが、実際に自分でコミュニケーションをとりたいと思ったとのこと。私自身、通訳の仕事をしていますので、通訳業務が減るのは死活問題(!)ですが、自分自身、コミュニケーションの仲介人をしつつも「本当は直接やりとりできた方が、きっとご本人たちも嬉しいだろうな」といつも思います。

さて、このドラマを観ていると、勉強のヒントが色々と詰まっていることに気づかされます。たとえば英語の場合、語源から調べるのもその一つです。ただやみくもに暗記するよりも、単語ひとつひとつを解析して接頭語や接尾語を押さえ、ラテン語やギリシャ語などにさかのぼってみれば、他にも同様のものを使った単語に結び付けられます。私自身、電子辞書で単語を調べた際には必ず語源をチェックして来ました。実は、誰もがそうやって学んでいるとばかり思っていたのですね。でも実際、授業で受講生に尋ねてみると、語源ウォッチングをしているのは限りなく少数派であることがわかりました。自分では当たり前のこととして楽しく楽しくそれをやっていても、万人がそのことを自分同様に取り組んでいるとは限らないのですね。いえ、それどころか、そのような楽しみ方(?)は初耳、というケースが少なくなかったのです。

「そっかー、私にとっての楽しみ方をもっと授業で伝えていけば良いのね。そうしたら英語を身近に感じてくれるはず」

と最近は思うようになりました。

他にも第3話では「かぼちゃの産地を確認する」というシーンがありました。これはかぼちゃが日本産以外にもあるのはなぜかを生徒たちに考えさせるものだったのですね。日本と季節が逆である産地のことや、一年中日本に流通させるために輸入していることなどを私は改めて考えました。

かぼちゃの産地で思い出すことがあります。私自身、スーパーでは食材の産地をチェックするのがとても好きで、買いもしないのに(!)しげしげと眺めることがあります。

たとえば「たこ」。

モーリタニア産のものが結構見受けられます。

ではモーリタニアとは?帰宅したら早速地図帳チェックです。

アフリカ大陸にありますよね。地図を見るとアフリカの西海岸沿いにあります。首都は「ヌアクショット」。国の北側には西サハラ、北東はアルジェリア、東と南にはマリが接しており、南西にはセネガルがあります。モーリタニアは国の3分の2ほどが砂漠です。

私の好奇心はさらに高まります。モーリタニアを始めどの国も首都は赤丸で記されています。しかし、西サハラにはそれがありません。

ここで次は電子辞書の登場。「西サハラ」と入力すると、いくつか出てきました。ブリタニカやニッポニカなどは百科事典で記述が多いので今日はパス。山川世界史辞典は数行に収めてあるので、読んでみました。それによると、1976年にスペインが撤退した後、モロッコが占領しており、武装勢力との対立が続いているとあります。

なるほど。

で、再びモーリタニアに戻ります(そうでもしないと今度はモロッコ調べに飛びそうですので)。

今度はニッポニカ百科事典で調べてみました。すると漁業について「タコ、イカ中心の水産物は最大の輸出品」と出ていました。これで納得です。

さらに好奇心が止まらず、今度はモーリタニアと日本の関係について調べ始めました。ここで便利なのが外務省のホームページです。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/mauritania/data.html

こちらを読むと、モーリタニアの基礎情報もしっかりと載っています。日本の2.7倍の国土面積であること、兵役は志願制であること、公用語はアラビア語ではあるものの実務言語としてフランス語が使われる(元フランスの植民地)などがわかります。主要貿易相手国は輸出・輸入ともに「中国」です。中国が近年、アフリカ大陸で影響を見せていることがうかがえます。

外務省のHPの良いところは、対日輸出(やはり「たこ」と出ていました!)や在留邦人数(16名)、在日モーリタニア人数(22名)などもわかることです。こうした身近なデータを見ると、遠いアフリカの国にも親近感を抱けます。

さらに今度は「国名の由来」が気になってきたので、再び電子辞書で調べたところ、リーダーズ英和辞典に「マウレタニア Mauretania」という古代アフリカ北西部にあった王国から来たことが分かりました。

・・・では似た国名で「モーリシャスMauritius)」は?インド洋に浮かぶマダガスカルからさらに東に位置する島です。またまたリサーチすると、モーリシャスとモーリタニアは関係がないようでした。次はインターネットで検索です。調べたところ、モーリシャスはオラニエ公マウリッツ・ファン・ナッサウ (Maurice of Nassau) から来たそうです。なるほどー。

「あ、マダガスカルと言えば、映画があったっけ。柳沢慎吾の吹き替えがぴったりだったなー。最近、どうしているかな?そう言えばものまね動画、特に「ふぞろいの林檎たち」の中井貴一や山田太一監督の真似はお腹がよじれるほど笑ったっけ。」

・・・と動画サイトで検索が始まります(以下省略)。

という具合に、通訳者のリサーチは、たこから始まり動画サイトで帰結するという、まさに「楽しみながらの勉強」です。真面目に通訳者デビューを目指す学習者にとって、一体どこまでこの方法が役に立つかは全く保証できませんが、少しでも(微々たる量でも?)参考になれば嬉しいです。

(2021年6月8日)

【今週の一冊】

「日本語びいき」清水由美文、ヨシタケシンスケ絵、中公文庫、2018年

大学図書館でヨシタケシンスケさんの本が借りたくて検索したところ、この一冊を見つけました。「させていただく」の用法や、「先生」の読み方(せんせー?せんせい?)など、普段何気なく使っていることばに改めて意識を向けることができます。

ちなみに「ら抜き言葉」は今なお報道現場ではNGとされています。しかし著者の清水氏によれば、あの国営放送でさえ、キャスター同士のおしゃべりになると「ら抜き言葉」が出ているとのこと。「つい」という感じなのでしょうね。

一方、「させていただく」は本来、以下のようなニュアンスがあると書かれています:

「こんなことをスルのは図々しいんですけれど、あなたのお許しをいただいて、します」(p43)

そうなのですよね。清水氏も例として挙げていますが、たとえば芸能人の交際会見などで「私は○○さんとお付き合いさせていただいて」などと出てくると、「いちいち私ごときの許可を求めていただく必要はない」(p43 ) となるわけです。同感です。

なお、156ページには外来語の「チ」と「ティ」表記についての説明がありました。スチール、プラスチック、チベットなどの語は、外来語としては導入が早かったので「チ」。一方、ミルクティー、ボランティア、アイデンティティーなどのことばは歴史的に新しいので「ティ」なのだそうです。

…試しに「ミルクチー」「ボランチア」「アイデンチチー」と口にしたところ、ものすごい違和感でした!皆さんもよろしければご発声を。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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