INTERPRETATION

第485回 笑いにしてしまおう

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

勝間和代さんの唱える「三毒追放」。これは「妬まない、怒らない、愚痴らない」というもので、そう心がけることで味方が増える、という考え方です。

人は嫌なことに遭遇すると、ついついこの三つをしてしまいますよね。私など中学高校時代は母親を相手に色々な愚痴を言っていました。夕食後2時間ぐらい、ずーっとそうした不満を並べ立てていたのです。よくまあ母も付き合ってくれたなと思います。

もっとも、それからしばらくして母の愚痴を聞かされることとなり、私が自説を展開するも母は頑として受け入れず、さらに私もそのころは忙しくて話を切り上げようとしたところ、母に「あの時さんざんあなたの愚痴を聞いてあげたのだから、今度はあなたが聞く番」と言われてしまいました(笑)。

さて、この三毒ですが、いったんそのモードに陥ってしまうと、はい上がるのが大変です。たとえば誰かに対して「いいなあ、それに比べてどうして私は・・・」などと妬み始めると、とてつもなく自分がみじめになり悲しくなります。さらにそれが悪化すると、「一体なぜ私がこんな目に??」と相手に対する怒りが出てくるのですよね。

さらにそうした思いを身近な人に愚痴り始めると、さあ大変。以前私はそうした負のスパイラルに陥ってしまい、愚痴を言い始めたらクタクタになって、椅子から立ち上がるのもおっくうになったほどでした。そう、三毒というのは本人の心身エネルギーを莫大な力で奪ってしまうのですよね。

で、最近工夫していること。

それは妬みそうになったら、自分が与えられている恩恵をあえてカウントしています。比較対象は世界でも良し。「世の中には内戦で苦しんでいる人がいる。そうした方々と比べれば私は本当に幸せ」と思うことができます。あるいは、妬んでいる相手そのものと比べてみても良いでしょう。「あの人はああだけれど、私は〇〇において恵まれている」と思ってみるのです。

「怒り」に関しては、残念ながら一旦スイッチが入ってしまうとなかなか沸騰状態が冷めないかもしれません。そのようなときは仕方がありませんので「あ、今私はうーんと怒っているんだな」とまずは自分の怒りを認めるようにしています。それを終えたら、「でもこちらがこんなに怒っていても、相手は案外どこ吹く風状態かもしれない。これって怒り損よね」と思えればしめたのも。貴重な自分のエネルギーをこれ以上費やすのはもったいなくなります。そう言えば数年前に「多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。」という本がベストセラーになりましたっけ。

そして最後の「愚痴」について。

愚痴を言う時というのはたいてい誰か相手がいますよね。家族であったり友人であったり、という具合です。善意でこちらの愚痴を聞いてくれる相手には本当に感謝あるのみですが、あまりにもそれが続きすぎると相手もうんざりしてしまうでしょう。

そこで考えたのが、「不満顔で愚痴を言う」のではなく、「自分の愚痴を面白おかしく伝える」ということです。できればこちらの愚痴で相手が爆笑してくれるぐらいの面白さにしてみれば、相手の笑顔にこちらも救われますし、「笑いネタにしてみたら案外この愚痴も大したことないかも」と思えてきます。一緒に笑い飛ばしてチャンチャン!スッキリできます。

というわけで、私自身、まだまだ修養が足りないなと思いつつ、自己改善をめざしたいと思います。

なお、仕事の愚痴を言いたくなった際、「同じ業界の人」であれば、こちらの言い分をよーく把握してくれますよね。でも狭い世界ですので、あまり賢明ではありません。よって、「異業種の人」に話した方が新たな視点を得られますので、むしろ健全のように個人的には感じています。

(2021年3月23日)

【今週の一冊】

「読売新聞『シングルスタイル』編集長は、独身・ひとり暮らしのページをつくっています」森川暁子著・編集、中央公論新社、2020年

日本では近年「お一人様」が増えています。さらに少子高齢化も加速しており、2040年の独身者の人口は4600万人、総人口のおよそ5割が独身となるのだそうです。今やそうしたお一人様をターゲットとしたマーケティングも注目されており、現にコンビニでも一人用の商品が増えていますよね。しかもお一人様は男性女性を問わず増加傾向にあるとのこと。1950年の生涯未婚率はともに1パーセント台でしたが、2040年には男性30パーセント、女性が19パーセントに増えるとされています。(https://news.goo.ne.jp/article/dailyshincho/nation/dailyshincho-710184.html

本書はそうしたお一人様向けの記事を作っている読売新聞・森川暁子編集委員による一冊です。森川氏自身が独身であり、その視点から取材をし、様々なバックグラウンドを持つ方々の体験談が出ています。単身者と言っても、未婚、死別、離別など境遇は様々ですが、いずれも一人で生きていく上での工夫や葛藤などを知ることができます。

中でも印象的だったのは、コロナ禍でシングルがどのように日々を楽しんだかを紹介するページです。私などついついネットサーフィンだけに集中しがちですが、パズル雑誌を複数購入した人やハーモニカを楽しんだ人、紙袋のひもの部分を切り取って組みひもを作った人など、みなさんそれぞれ工夫をしている様子が描かれていました。今、目の前のことを楽しむ、そして自分なりに試行錯誤しながら日々を生きることが大事なのだと改めて感じます。

たとえ家族や夫婦、カップルという「形」を維持して外からは安泰そうに見えても、当の本人は幸せを抱けないケースがあるかもしれません。しかも人は一人で生まれて一人でこの世を去っていきます。どのように納得のいく人生を歩むべきか、本書を読んで色々と考えさせられました。お一人様にもそうでない方にもお勧めしたい一冊です。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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