INTERPRETATION

第101回 心に残る贈り物

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

私たちは日常生活の中で贈り物を交わす機会がありますよね。お歳暮やお中元、クリスマスにバースデープレゼントと内容も多岐にわたります。そこで今回は、心に残る贈り物について考えてみましょう。

私がプレゼントを選ぶ際に意識しているのは、相手の好みを考えつつ、本当に喜んでいただけるものを選び抜くという点です。これがなかなか難しくもあるのですが、ご本人の顔を思い描きながら探すのは楽しい作業です。

たとえば義父母はビールが好きなので、お祝いの際には各地の珍しいビールをこれまで贈ってきました。また、子どもたちが遊びに行った際には、子どもたち好物のそうめんを出してくれるので、その「補充用」として、そうめんギフトを贈ることもあります。「あって困らないもの」「皆でおいしく食べられるもの」がキーワードです。

他にも「体験」をプレゼントすることもあります。腰痛と疲労に悩まされる主人には、いきつけのマッサージ店でギフト券を購入したこともありました。両親の金婚式には、3世代が集まり、食事を楽しみました。「モノ」としては残りませんが、同じ空間と時間を共有するという経験も代えがたいと思っています。

一方、これまで頂いたものの中で印象的だったものをご紹介しましょう。筆頭にあげられるのが「食材」です。親戚や恩師から暮れになるとお米や果物、野菜セットなどが届きます。育ちざかりの子どもたちがいるので、本当に助かります。余りそうな場合は、日ごろお世話になっている方におすそ分けもしています。

また、ご当地グルメも嬉しいですね。以前ホームパーティーをした際に、地元で有名というお菓子をお客様から頂いたのですが、実に美味でした。来客とも一緒に食べることができ、これも「経験の共有」となります。珍しいワインやオリジナリティあふれる形のケーキなども、パーティーの場面が華やぎます。個別包装されているお菓子なども、その場でサッとお出しできるので、忙しい主催者としてはありがたい限りです。

ところでここ数年、片づけがブームになっていますね。私は物をたくさん持つのが苦手なので、使わないものはあっさりと処分するタイプです。先日読んだ雑誌でも、「物を持つということは、そのモノの最後まで責任を担うことだ」というくだりがあり、なるほどと思いました。何かを買う際には、「かわいいから」「お手頃価格だから」といった理由で求めるのではなく、よくよく吟味して、その「最期」まで責任を持つという考えです。

これはとても大切なことではないでしょうか。今の時代、何もしなくても気が付いたら無料グッズがどんどん家に入って来ます。ボールペンやメモ帳、タオルやお皿など、自分の好みはさておき、景品や無料プレゼントがいくらでも侵入してくる時代に私たちは生きているのです。

先日も机の引き出しを整理していたら、ロゴ入り景品ボールペンが数本出てきました。「今使っているボールペンが切れたら使おう」と取っておいたのです。でも、ふと考えてしまいました。「文具店に行けば素敵な筆記用具がある。自分の用途に合った物を買わずに我慢して、なぜ好みでないロゴ入りペンを使わなければいけないのだろう」と。

物を贈ったり頂いたりということは、これからも続きます。今年も本当に相手が喜ぶ物を贈りたいと思います。それと同時に、自分と物との考えを改めて見つめ直したいと思っています。

(2013年1月21日)

【今週の一冊】

「親子で楽しむこども論語塾」安岡定子著、田部井文雄監修、明治図書、2008年

昨年暮れに著者の安岡先生が主催する論語塾に親子で出席した。ちょうど息子が論語を小学校で習ったところだったので、素読を行う教室に出かけてみたのだ。私も中学高校時代の漢文で学んだが、すっかり忘れている。内容を思い出すという意味でも実に有意義な授業であった。

こども論語塾で使われたのが今回ご紹介するテキストである。見開きページの右側に、子どもでも読めるよう振り仮名つきの書き下し文が書かれている。その隣には原文と口語訳がある。一方、左ページには子ども向けの解説があり、安岡先生が分かり易い文章で論語の内容を紹介している。口語訳からだけでは分かりづらいことを、具体的なエピソードとして綴ってあるのがありがたい。

今、書店にはおびただしい数のビジネス書やハウツー本があふれている。けれどもそうした本の根底にある内容は、実は古典に書かれているのだ。私は今年、出来る限りたくさんの名著・古典を読もうという目標を立てた。論語もその一つである。子ども向けとあなどるなかれ、義務教育で学んだことをすっかり忘れた私たち大人も、こうした書籍から学べることは多い。

論語の教えをかみしめながら、丁寧に生きたいと思わせる、そんな一冊であった。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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