第96回 尊敬する人を持つ
みなさんには「尊敬する人」がいらっしゃいますか?
私は本や仕事、趣味の活動などを通じてこれまでたくさんの方から影響を受けてきました。大学時代に読んだジャーナリストの故・千葉敦子さんの著書からは、生き方・暮らし方を学びました。精神科医・神谷美恵子先生の全集からは、人間として女性としてどうあるべきかを考えさせられました。その後も通訳業務などを通じて素晴らしい方に出会う機会があり、本当に感謝しています。
「尊敬する人」を持てるのは幸せです。なぜならば、「自分もこうありたい」「このような生き方をしたい」という方向性が見えてくるからです。
かつて私は幼い頃イギリスに暮らしていました。当時通っていた女子校の友人の多くは英国国教徒でした。彼女たちの生活にはイエス・キリストの存在がとても大きく、「神様が見ておられる」ということが一つの行動指針となっていたのです。一方、私が育った家庭は平均的な日本人同様、「クリスマスも大晦日もお正月もすべて祝う」的な環境でした。ですので、「何か大きな存在」を強く意識しないまま育っていったのです。
最近私はこれまで影響を受けた人、尊敬している人について改めて考えてみました。そしてどの方も以下の3点を共通して持っておられることに気付いたのです。
1.批判を恐れず、自分の方針を強く静かに信じている
2.自分ができることをできる範囲で愚直に続けている
3.未来を見据え、社会のお役に立ちたいと願っている
私自身がまだまだ発展途上だからこそ、こうした方々の生き方に強く惹かれるのだと思います。特に私の場合、「3」の気持ちは強いものの、やはり自分の弱さが克服できず、「1」の「批判を恐れない」という部分がネックになっています。自分の今後の課題です。
今の世の中、「これだけ達成しました!」「こういうこともやっています!」という具合に、”Look at me!!!”的な態度を示すことは簡単です。むしろそうした「成果の見える化」が脚光を浴びているからこそ、自己実現・自己啓発といった本が売れるのでしょう。もちろん、そうした達成事項も世の中の役に立っているのですから、社会への貢献にはなります。けれども私が尊敬する方々は、むしろ自分から成果を公言しないのです。著作がある方は別ですが、日常生活で「この人すばらしい!」と思った人をグーグル検索してもほとんど出てきません。そんな方こそ本物だと私はしみじみ思います。
そうした方たちは自分から「見て見て!」と言う代わりに、強力な応援者が周りにいらっしゃいます。周囲が放っておけないぐらい素晴らしいことをしておられる、だから応援したい。そんな周りの気持ちがどんどん輪になり積み重なり、その活動がじわじわと世間の知るところとなるのです。そうなるまでに時間はかかるでしょう。高齢の域に達しておられる方もいます。でも、これこそ「あるべき姿」だと私は思うのです。
そこで私は次のような表を作ってみました。
この表に自分が「素晴らしいな」と思う方の名前を記入してみたのです。たとえば「故人・20代」であれば、20代で活躍した故人名を書き入れます。「現在活動中の方・20代」の場合、別に著名人である必要はありません。「行きつけのカフェの20代の店員さんが素晴らしい!」と思うならば、その方のお名前を記入します。
20代に逆戻りすることは私にはもうできません。けれども「あの人は若くてもあれだけ素晴らしい貢献をしている」と思うと、「今からでも頑張ろう!」と勇気が出てきます。
自分よりも多忙な人、重責を担う人に思いを馳せると、自分の悩みなど小さく思えます。自分の信念を小さなロウソクの炎に見立てて、その炎を絶やさずに歩んでいきたいと思います。
(2012年12月3日)
お世話になっていた先の社員さんが、先日突然辞めてしまった。退職するそぶりなど全くなかっただけにショックであった。まだ若い方なので、色々と将来を考えた上での転身かもしれない。でも事前に知っていたら一言お礼をお伝えできたのにと残念に思う。
仕事に関する本はこれまでも色々読んできた。最近しみじみ思うのは、「誰かの役に立っている」という実感があることが、私にとっては大きなモチベーションになっているという点。放送通訳の場合、視聴者からの意見が直接届くことはめったにない。でも「誰か一人でもこのニュース通訳を日本語で聞き、何かを感じ取ってくれれば」という思いが常にある。
大学卒業後、色々な仕事についてきた。最初の航空会社はわずか1年7カ月で退職。その後も数年間勤めた企業もあれば、たった1カ月で辞めてしまったところもある。今にして思うと若さゆえの勢いで転職した部分もある。けれども往々にして言えるのは、「社員として上司や会社側が大切にしてくれたところ」には長いこと勤務したと思う。
会社はお客様のためにサービスを提供する。けれども経営者が社員を大切にせず、お客様「だけ」を優遇していれば社員は疲弊してしまい、満足なサービスも提供できなくなる。本書は「従業員としていかに働くか」だけでなく、「リーダーはどうあるべきか」についても記されている。
「失敗というのは(中略)、成功する前に諦めてしまうから失敗する」
この一文が深く心に残った。
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