INTERPRETATION

第471回 直感を信じる

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

日々の生活を営んでいると、色々な決断を迫られますよね。小さな選択、それこそスーパーで「どちらの商品を買おうか」というチョイスに直面することもそうですし、就職や転職など、人生における重大な決断を下さねばならないこともあります。

では、一旦自分で「これにする」と決めた後、迷いが生じた場合、どうすべきでしょうか?人というのは、このようなときにこそ、一番悩み、苦しんでしまうのだと思います。

「自分はAという選択をした。でも本当はBの方が良かったのではないか?」

そのような思いに見舞われると、頭の中は「どうしよう?」「どっちが良かったんだろう?」とグルグル考えが回ってしまうのですよね。

ささいなことであれば、それこそ金銭的痛手や心理的苦痛などが大して伴わないのであれば、後悔する選択をしたとしても、さほどダメージは受けないでしょう。

でも、本人にとって大きな決断である場合は、ノートにプラスとマイナス点を書き出したり、人に相談したり、時間をかけて考えたりなど、あらゆる手を尽くして答えに行き着きたい、たどり着きたい、と本人は焦るのではないでしょうか。

私も自らの人生を振り返ってみると、人生の節目で様々な決断を迫られることがありました。それこそ進学や就職、転職や留学などたくさんあります。自分の意思や年齢、資金、先への見通しなど考え始めれば、押しつぶされそうな気持ちになってしまいます。

では、どうすれば良いのでしょうか?

私は、世に言う「運を天に任せる」のが、やはりベストであると考えます。

それと同時に、「自分の直感を信じること」も大事であると思っています。

自分の直感を研ぎ澄ませるためには、自分自身の心身が健やかでなければいけません。なぜならいざ、困難な状況に直面して「最後は直感で行こう」と決意したとき、自分の心と体が疲労困憊していた場合、まともな判断ができなくなるからです。

だからこそ、自分を大切にして、疲れていたら自分を労わり、自分をねぎらい、自分を信じていくことを、生きていく上で心がけていきたいと感じています。

(2020年12月8日)

【今週の一冊】

「愛することば あなたへ」瀬戸内寂聴著、光文社、2018年

コロナの終わりがなかなか見えない中、誰もが心を痛めたり、不安に見舞われてしまったりという日々が続いていることでしょう。頭の中で物事を考え始めると、堂々巡りになってしまう。あるいは、悲しいことしか思い浮かばなくなるなど、気持ちを上向きにするのが大変という方もいらっしゃるかもしれません。

そうした中、私が手に取ったのが今回ご紹介する寂聴先生の一冊です。1ページに一つのメッセージがあるので、どのページから読んでも心に響きます。「愛」とはいかにあるべきか、「愛」を享受するにはどうしたらよいのか、逆に自分が「愛」を与えるために必要なことは何か。そういった問いへの答えが出ています。

中でも次の文章が印象的でした。

「想像力と思いやりのない人は『愛』に縁がない」

世の中には自分から愛を与えるよりも「他人から与えられたい」「ちやほやされたい」と思ってしまうケースもあると思います。そのようなマインドになってしまうと、相手に対する共感力や想像力、思いやりが欠如してしまうのですね。

たとえばAさんがBさんに悩みを相談したとしましょう。Aさんは自らの苦しみをBさんに吐露したものの、BさんはAさんの苦しみを今一つ理解できず、実感がわかない。そうなるとAさんの気持ちを想像することすらできません。そして表面的なアドバイスだけ口にしてしまい、かえってAさんを傷つけてしまう。

そのようなことも人間関係ではあり得るのです。

勇気を振り絞って相談を持ち掛けたAさんはショックを受け、場合によってはもうBさんに相談するのは止めようとすら思うかもしれません。するとBさんは「愛」から縁遠くなってしまうのです。

これは極端な礼かもしれません。けれども人と人の交流というのは、まっとうなアドバイスをすることでもなければ、正論を提示するものでもないと私は考えます。いかに寄り添えるか、いかに共感できるか。

それが寂聴先生のおっしゃる「愛」なのではないでしょうか。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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