第92回 最近寄せられた学習相談から(その3)
英語の勉強に関する相談、今日は最終回です。
質問: 「シャドーイングをやりながら内容を把握することができません。どうしたら良いですか?」
回答: 最近は通訳学校だけでなく、中学や高校などでもシャドーイングが英語学習の一環として取り入れられるようになりました。シャドーイングのメリットは主に以下の3点です。
1.聞く力を鍛えられる
2.記憶力をトレーニングできる
3.発音や構文力を向上できる
シャドーイングでは、自分もオウム返しに音声を繰り返して行かなければなりません。ですので、ただ漫然とリスニング教材を聴くのとは異なり、集中力が求められます。そのため、「聞くこと」に神経を使いますので、聞く力を伸ばせるのです。
また、音声が聞こえてきて数秒後には自分も繰り返すわけですから、先に聞いた文章を記憶する必要があります。つまり、頭の中に内容を留めておく記憶力の養成にもつながるのです。
さらに、音を聞き、すぐに繰り返すことで発音も練習できます。一方、文章を丸ごと繰り返すので、構文力のアップにもつながります。
以上から、シャドーイングは一つの作業でありながら、複数分野のトレーニングにもつながるというわけです。
今回のご質問は「シャドーイングをしつつ、内容まで把握するのは難しい」というものです。実はこの悩みは誰もが経験するものであり、私も通訳の勉強をしていた頃は「内容まで頭が回らない!」と焦ったものでした。
ではどのようにしたら内容を把握できるようになるでしょうか?私は次の3つに集約されると考えています。
1.とにかく慣れる
こう書くと身も蓋もなさそうですが、物事をスムーズにできるようにするには、やはり繰り返しコツコツと続けていき、慣れていくしかないのです。
たとえば水泳選手を見てみましょう。最初は誰もが泳げなかったはずです。習いたての頃はコーチに手の角度や足の動かし方、息継ぎ方法などを学んだことでしょう。そして自分なりに何度も何度も泳ぎ続けることによって、意識せずとも泳げるようになっていくのです。
シャドーイングも同じです。「いきなり英語のシャドーイングではハードルが高い」というのであれば、まずは日本語シャドーイングがお勧めです。NHKラジオニュースのように、標準的な発音と話す速度の音を追いかけ続けることにより、シャドーイングという行為そのものに慣れることができるでしょう。
2.知識を蓄えておく
通訳者にとって必要なのは幅広い知識です。シャドーイングをする際にも、「自分が知っている内容」であれば、比較的スムーズに行えます。たとえば私の場合、ニュース英語は放送通訳という仕事柄ひんぱんに接しているため、シャドーイングがしやすい分野です。しかし、以前、車を運転中に野球中継のシャドーイングを試したところ、ルールを今一つ把握していないため、全く歯が立ちませんでした。
知識力を蓄えること。これはシャドーイングに限らず、日ごろの英語の理解にも大いに力を発揮します。読書、映画鑑賞、美術館訪問など、一見趣味のような活動も知識力アップに貢献します。通訳者を目指すのであれば、ぜひ幅広い知識を吸収するよう心がけてください。
3.テーマを決めたシャドーイングを
シャドーイングを行う際、テーマを決めて取り組むのも一案です。最初から「すべてを拾わなければ」と思うと大変ですが、「初回は数字だけでも丁寧に拾う」「2回目は固有名詞を落とさないようにしよう」「3回目はaやtheなどの冠詞をしっかりシャドーイングしてみる」など、テーマ別に行うのもお勧めです。
最初から完璧を目指すとどうしても「できなかった自分」に敗北感を覚えてしまいます。けれども、色々な角度から一つの素材に取り組めば、メリハリのある学習ができます。内容を把握する上でも「数字だけ」「固有名詞だけ」抽出するという訓練を続けて行けば、少しずつ全体像もつかめるようになってきます。
いかがでしたでしょうか?
シャドーイングは短い時間でも、歩きながらでも行える効果的・効率的な訓練法です。ぜひ日ごろからシャドーイングを取り入れることによって、英語力アップを目指していってください。
(2012年11月5日)
「それでも東北は負けない」村井嘉浩著、ワニブックス【PLUS】新書、2012年
震災から1年以上がたち、被災地に関する新聞記事も減ってきてしまった。半年前に仙台へ出張した時も、駅前は賑やかで明るかった。「やはり日本人は勤勉だから復興が早いのだろうな」とつい思ってしまう、そんな急ピッチの進み具合に思えた。
しかし現実は違う。たまたま被害の少なかった地域は復興が早いものの、まだまだ瓦礫と格闘し、家を失った方々が大勢いらっしゃるのである。
今年3月の当コラムで宮城県・村井知事の本(「復興に命をかける」)をご紹介した。
https://www.hicareer.jp/inter/hiyoko/index_31.html
ちょうどその後、とある英語学習誌に震災と海外メディアに関する記事を私が書いたこともあり、そのコピーと本の感想を知事にお送りした。すると知事ご本人からすぐにお礼の葉書が届いたのである。復興事業で多忙を極める中、県外の一読者のためにわざわざ直筆のお手紙を書いてくださったことに私は大いに感激した。遠く離れていても、間接的でも良いから何かお役に立てることはないか。今はそんな思いを抱いている。
本書は村井知事の前著に引き続き、震災当日の様子、そして復興に関する話題などが中心につづられている。また、知事になるまでのご自身のエピソードも盛り込まれている。今でこそ強いリーダーシップで復興事業に携わっている印象が強い村井知事だが、弱かったかつての自分、悩み苦しんできたことなど、自身の「負」の部分も隠すことなく記されている。
志を高く持ち、人のお役に立てるために何ができるか。そのための「勇気」を私は本書から与えてもらった。
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