INTERPRETATION

第87回 やる気が出ないときの対処法

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

この夏は本当に暑かったですね。ようやく最近になって朝晩はしのぎやすくなりましたが、それでも日中は残暑が厳しい状態が続きます。「節電もしなければ、でも体はしんどいし」などと思いながらこの酷暑を乗り切った方も多いのではないでしょうか。

私はどちらかというと朝型で、これまでも朝時間活用などに関して色々なところで書いたりお話したりする機会がありました。でもやはり人間は機械ではないのですよね。朝大好きの私でも、ひたすら睡眠というのがこのところ続いています。おそらく夏の間に消耗した体力を何とか挽回しようとしているのでしょう。そのような時は無理に朝活動などと考えず、身体が回復するのを待つようにしています。

今回は、そんな夏の疲れを感じる皆さんのヒントになればと思い、やる気を復活させるためのポイントをお話いたします。

1.眠いときはひたすら寝る
当たり前でいてなかなか実行できないのが「睡眠」に関することかもしれません。仕事が忙しく家に早く帰れず、必然的に就寝時間も遅くなりがちという方も多いことでしょう。でも、「眠い」ということは、やはり体が疲れを訴えているからだと思うのです。そのような時は無理をせず、動物の冬眠のごとく、「今は英気を養っているのだ」と割り切って良いと思います。

2.好きなことだけをやる
要は気分転換のことですね。何となくやる気が出ない時は、自分が好きなことに取り掛かるのも一案です。旅行が趣味なら思い切って出かけてみる。時間が許すならば数日間でも海外旅行という手もあります。ポイントは「日常の光景とは異なる景色を見てリフレッシュする」ことです。会社と家の往復でいつも同じ風景しか見ていないという方は、こうして新たな刺激を取り入れることも良いでしょう。

3.異なる分野に関心を抱いてみる
たとえば私の場合、大学では文系だったのですが、科学博物館やプラネタリウムに出かけてみることで、理系分野の知識に触れるようにもしています。わからないことだらけですが、少なくとも「自分が知らない分野はまだまだあるのだ」と新鮮な気持ちになれます。全部理解しようとせず、「こういう世界があるんだ。ふーん」と感嘆するだけでも良いと思います。

4.鳥瞰図的なとらえ方をする
疲れていたり、行き詰ったりしている時というのは、往々にして視野が狭くなっている時です。職場の人間関係、子育て、伸び悩む英語学習のことなどなど、にっちもさっちも行かないような気になってしまうのですね。そのような時、私は「鳥瞰図!」と声に出すようにしています。物事を広い視点から眺めてみることで、少し見方も変わってくるからです。狭いところで堂々巡りをしている時、一歩下がってみると気持ちも楽になってきます。

5.時が解決するのをひたすら待つ
やる気が出ない、疲労感で動きたくない、一生懸命やってもうまく進まないなどといった状況に陥ることは誰にでもあると思います。確かに自己啓発書にあるような「問題点をあぶり出す→対策を考える→期日を定めて具体的な行動をとる」というのでも良いでしょう。けれどもそれすら億劫に思えてしまうことは人間であれば当然あるはずです。そのような時は無理をせず、「今は悩む時期なのだ。時間が解決してくれるはず」と信じてじっとしていることも一案です。渦中にいると行動をとらない自分がもどかしくも思えるでしょう。けれどもそうした状況と共存し、時間の経過を待つことで見えてくることもあると思います。

いかがでしたか?今回は5つの観点から書いてみましたが、皆さんそれぞれの対処法というものがあるかもしれません。真面目な人ほど「それまで活動的だった私がなぜこんなに足踏みしているのだろう」と自分を責めてしまいます。けれども自分に矛先を向けたところで状況が好転するとも限りません。ゆるゆると自分で自分をなだめつつ、時の流れに乗っていくのも次へつながるのではと私は思っています。

(2012年9月24日)

【今週の一冊】

「『いのち』の使命」 日野原重明著、日本キリスト教団出版局、2012年

齢100歳の現役医師、日野原重明先生。私が日野原先生を初めて知ったのは、確か中学生ぐらいのときに朝日新聞に掲載されていたコラムであった。日野原先生は50代のころ、「よど号」という飛行機に乗っていた際、ハイジャック事件に巻き込まれてしまう。その時に「カラマゾフの兄弟」を読んで心を落ち着かせたこと、無事解放されてからは自分の命が生かされているのだととらえ、世のために尽くすには自分に何ができるかを考えるようになったという旨がそのコラムには綴られていた。

本書は東日本大震災の後、私たちはどう生きるべきかが平易な言葉で記されている。日野原先生は若いころ、結核と肋膜炎にもかかったこともおありである。病気、ハイジャック事件、大地震など、命とは何かを先生なりに考えてこられたのである。

中でも次の一節がとても印象的だったのでご紹介したい。

「壮年期は外へ向かって、いかに自己を顕示するかが課題だったが、五十歳という中年を迎えた今、内なる自己を見つめて、これからは内に向かう自己と外へ向かう自己を調整するときが来た」

今の時代、書店へ出向けば「こうすれば成功する!」「○○術」など、誰もが自らの成功を願い、それが実現できるというタイトルの本が並んでいる。若いころはそれでも良いと思う。けれども一定の年齢以上になれば、自分のためではなく、人のためにどうお役にたてるか。それを私自身も課題として考え続けたいと思っている。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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