第86回 自分で考えてみる
「どのテキストがお勧めですか?」
「シャドーイングはどんな素材をやればいいですか?」
「一日何分勉強すれば良いですか?」
「どうやったら通訳者になれますか?」
英語の指導をしていると、このような質問をよく受けます。一昔前は「これこれこういうテキストでこのような勉強法をしているのですが、行き詰ってしまいました。どうしたら良いですか?」「通訳の学校にはAとBとCがあって、一通り体験レッスンも出てみましたが、どこにしようか迷っています」というタイプの問いが多かったように思います。けれども近年は、質問自体が短く、より明確な答えを教師に求めるものになっています。
なぜ質問自体が変わってきたのでしょうか?これは昨今のインターネットの進化と関係があると私は睨んでいます。なぜかと言いますと、ネットの場合、検索機能を使えば求めている答えそのものをピンポイントで得られるからです。自分はこれについて知りたいと思えばそれを検索してみる。ぴったりの回答がヒットする確率が高いのが検索機能の素晴らしいところです。
けれども私としては「もったいないなあ」と思うのです。というのも、英語学習や自分自身の人生において大切なのは、「自分で考え、自分で工夫し、歩み続けること」そのものが求められるからです。
冒頭の質問を例にとってみましょう。「お勧めテキストを」と言われても、その人が英語学習に費やせる時間、レベル、英語をなぜ学ぶのかということは異なります。私のピカイチが万人向けにはならないのです。シャドーイング教材も同様です。私はニュースが好きなので、NHKニュースをシャドーイングしています。でも時事問題が苦手な人には苦痛になってしまうでしょう。一日何分勉強するかも同様です。どれぐらい学習時間を割けるのか、本気で英語を上達したいのかも各自の状況によりけりです。「ハイ、これが答えです。これをやれば間違いなし!」と私が答えれば、一見親切な教師に見えるでしょう。けれども私としては、このような答えの方がかえって責任を伴っていないように思えるのです。
「通訳者にあこがれている」という方もたくさんいらっしゃいます。けれども本当に興味があるのであれば、ぜひともまずはご自身で色々と調べてみてほしいのです。書店に行き、通訳関連の雑誌や本を入手する、通訳学校について調べ、比較検討してみる、資料を取り寄せるなど、そうした一歩を踏み出すところから、実は夢を実現するための道のりが始まっています。
日本人は真面目とよく言われます。こと英語学習においてはそうかもしれません。「このテキストの使い方を読み、『1日5ページ』という指示通りに勉強しています。でももっとペースを上げても良いのでしょうか?」という質問が飛び出してくると、本当に忠実に守ろうとしている様子がわかります。でも、こうした問いに関しては答えに窮してしまうことがあります。なぜなら、その学習者が「ペースを上げてでも早く英語を身につけたい」という状況にあるのか、それとも「趣味でコツコツと学びたい」というタイプなのかは、その方のライフスタイル、ライフステージによりけりであり、最終的にはご自身で判断していかなければならないからです。
教師というのは、助言をすることはできます。けれども学習者の代わりに勉強してあげることはできません。学ぶ方の状況やニーズを聞き出し、最善のアドバイスを差し上げることはできます。あとは学習者自身が「自分の頭で考えて、実行する」ということにこそ、最大の成果があると私は考えています。
(2012年9月10日)
「ロムニー大統領で日米新時代へ」 日高義樹著、徳間書店、2012年
今回ご紹介するのは、来る秋のアメリカ大統領選の行方を占ううえで大いに参考になる一冊。4年に一回の大統領選挙は、放送通訳業に従事する私にとって毎回大きな難関でもある。というのも、選挙制度が非常に複雑で、何度予習してもなかなか頭に入らないからだ。そこで私自身の勉強の一環として、まずは全体像をつかもうという理由から本書をひも解いてみた。
「チェンジ」を合言葉に当選したオバマ大統領であるが、もしロムニー氏が当選した場合、世界情勢はどのように変わるのであろうか?また、日米関係にはどういった影響が出るのか?そうした観点から状況をとらえ、世界の動きがどう変遷していくかを知るうえで、本書は非常に興味深い。ビジネス界はロムニー氏の支持に回っているが、その理由も本文を読めば理解しやすい。
今の世界情勢は、色々なところで大きな課題を抱えたままだ。ユーロ危機、日本の周辺の領土問題、不安定な中東情勢など、いずれもかつての時代であれば、アメリカの大きな存在感から解決ということもできたはずである。しかし、ここまで多様化してしまった今、アメリカの役割も微妙に変わりつつある。
大統領選挙自体はアメリカ国民にゆだねられるわけだが、その結果が私たちの日常生活にも大きく響いてくる。他国の選挙を他人事ととらえるのでなく、私たち自身の問題として受け止める。そういう意味で、本書は非常に示唆に富んだ一冊だと感じた。
に頑張っている人を応援する遠藤教授のように、私も私ならではの形で、そうした方々にエールを送り続けたいと考えている。
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