第82回 「紙」がもたらす偶然
先日、札幌を旅行してきました。一泊二日の弾丸ツアーでしたが、日常生活から離れて普段とは異なる光景を目にすることは大切なのですね。とてもリフレッシュすることができました。
今回の旅で感じたこと。それは「紙」がもたらしてくれた偶然の素晴らしさです。通訳の仕事をしていてよく言われるのが「最新の電子機器をバリバリ駆使して仕事をしているのでは」ということです。ネットで色々なことを調べたり、スマートホンを使いこなしたり、通訳現場でもiPadを用いてサッとリサーチしているという具合です。現にそうした通訳者は大勢います。ところが私はと言えば、メールも携帯ではなくPC派、スマートホンも持たず、iPadも触ったことがないというほどの超アナログ人間です。さほど必要に迫られていないからというのが最大の理由なのです。いずれそうしたグッズが仕事でも求められれば手に入れることになるでしょう。けれども今のところは辞書でさえも自宅で使うのは紙版。紙の手触りが好きなのと、他の単語に寄り道できることが楽しいのですね。
さて、その札幌と「紙」がどう関わるのかと言うと、到着直後のエピソードから始まります。
早朝のフライトで千歳空港に降り立ち、さあ電車で札幌市内へと思いきや、事故で電車が動いていなかったのです。それではと高速バスに乗ろうとしたものの満席。仕方なくターミナルへ戻り、少し早い昼食をとりました。まだまだ電車の復旧が見込めなかったため、案内カウンターで色々とパンフレットを入手し、ざっとめくってみたのです。すると「PMF」という字が目に入りました。PMFとはPacific Music Festivalという音楽祭で、毎年開催されているものです。若手演奏家たちが札幌に向かい、一流の音楽家からレッスンを受けるとともに、コンサートも開催します。レナード・バーンスタインが提唱し、佐渡裕さんなどへと引き継がれ、今では札幌のみならず、東京や海外でも演奏を行っています。また、プロの交響楽団やソリストなども招き、コンサートも開かれます。
パンフレットによれば、到着翌日に芸術の森で野外コンサートがあるとのこと。しかもチケット代はわずか3000円。アメリカのタングルウッド音楽祭やイギリスのプロムスのように、芝生に寝転び、飲食もしながらリラックスして楽しめるというコンサートです。オーケストラは札幌交響楽団、指揮者は今春まで仙台フィルを振っていた山下一史さん、演目はビゼーの「カルメン」です。これは聞きに行かねばと思いました。
ホテルに到着後も街の観光案内所に出向いては地下鉄・JRや路線バスなどのパンフレット及び時刻表、また、市内・市郊外の地図やイベントガイドなどあらゆる資料を入手しました。芸術の森までの道のりを確認しつつ、帰りの千歳空港行高速バスについても調べ、位置関係もマップで確認。そして翌日は晴れてPMFのコンサートを楽しみ、無事、東京行きの便に間に合うよう、移動することができました。
今回の調べ物はすべてネットがあれば可能です。けれども旅行だからこそ、あえてPCも持たず、とにかく私としては仕事や日常生活から自分を切り離し、気分転換を図りたかったのです。いえ、たとえネットにつながったとしても、札幌滞在中に音楽祭が開催されているという「事実」を私がもともと知らなければ、知る由もなかったと思うのです。つまり、ネットというのは何かをピンポイントで調べる際には大いに威力を発揮します。けれども元々未知の事柄であれば、調べようがないのです。
たまたま紙媒体の資料をパラパラとめくっていたら、偶然新しい情報に巡り合えたこと。さらに地図や時刻表などのおかげで移動もスムーズにできたこと。これらはいずれも紙がもたらしてくれる「偶然性」と、鳥瞰図的に状況をとらえられるというメリットに尽きると思います。そうした利点をありがたく思うからこそ、私の紙愛好はまだまだ続きそうです。
(2012年8月13日)
「感情の整理ができる女(ひと)はうまくいく」有川真由美、PHP、2011年
なるべく本はたくさん読み続けたいと思う。現に我が家の本棚は、買ってきたものの、まだ読み終えていない本がたくさん。中には「どうしてこれを買ったのだっけ?」と当初の購入意図が思い出せないものさえある。おそらく、手に取った瞬間は「読みたい」と思ったものの、その後私にとっての「旬」が過ぎてしまったのであろう。
私の場合、大量に本を購入する時期があるかと思えば、書店に出向いたものの、欲しい本が全くないという時もある。気乗りせず、活字を追う気にならない心理状況ということもある。なぜか最近の私は後者であり、読み方もノロノロだ。
そのような中、手に入れたのが今回ご紹介する本。夏休み突入以来、毎日子どもたちとがっぷり四つなので、私も少々お疲れ気味。「宿題やったの?」「ダラダラしな~い!」などと言いたくなるのを押さえつつ暮らしている。そもそも子どもと私は異なるのだから、私の価値基準ばかりを押しつけてはいけない。でも一緒にいる時間が増えれば色々と目についてしまう。そんな自分の感情をどうしようかと思っていた際にひかれたのが本書のタイトルだったのである。
本書をひも解くと、どのようにすればうまく感情を整理できるかが具体的に書かれている。根本的に言えるのは、「人を変えることはできない。変われるのは自分だけ」というもの。相手にイラつくよりも、自分がハッピーになることを心がける方が生産的であることが本書を通じてわかった。
日常生活でも職場でも、人が集まれば人間関係が生まれる。その中でお互いが気持ちよく暮らすにはどうすれば良いか。そのヒントがたくさん出ていた一冊であった。
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