INTERPRETATION

第438回 二十歳のときにやりたかったアルバイト

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

新年度が始まりました。今年はコロナウイルスの影響で様々なことがイレギュラーになっています。卒業式や入学式の中止、春学期授業開始の延期、各種公演・講演のキャンセル、美術館・博物館の閉鎖などはごく一例です。このニュースに触れ過ぎてしまうとかえって気分がどんよりしてしまいますよね。ならばこういう時こそ、自分をハッピーにしてくれることをした方が生産的です。せっかく花開く明るいシーズンなのです。まずは心の安寧をと思います。

「考えること・空想すること」にお金はかかりません。私はあれこれ想像する(妄想する?)のが楽しく、ウォーキングをしながら、あるいは仕事や家事の合間などに色々と考えています。そこで今回は自分なりにテーマを決めました。ズバリ、「二十歳のときにやりたかったことバイト・ベスト10」です。このコラムでシェアさせてくださいね。

第1位:スターバックスでのアルバイト
これは色々なところで述べている人がいるようですが、私も同様です。私が二十歳のときにスタバはまだ日本進出をしていませんでした。私がよく使うようになったのは、ここ20年ほど。自宅で仕事をしていても能率が上がらないと、スタバに駆け込んでいます。お目当てはラテ以上にスタッフさんとのやりとり。二十歳のときにさまざまなお客様とコミュニケーションできるようなスキルを身につけられていたら素敵だなと思い、筆頭に掲げました。

第2位:辞書の編纂作業
紙辞書が好きで、今でも家ではよく使っています。寄り道ができる、イラストを眺められる、ヘンな単語探しなど、自分なりに紙辞書と遊ぶのが息抜きです。英語に興味があった二十歳のときに、辞書編纂のアルバイトに関わっていたなら楽しかっただろうなあと思います。

第3位:塾の先生
これまで私は様々なアルバイトをしてきたのですが、塾の先生だけは未経験。結婚・出産後に通訳スクールで教え始めたころ、「塾経験があれば」と痛烈に感じたことがありました。板書や指導方法、コミュニケーション・スキルなどを二十歳のときに塾講師の仕事を通じて習得できていたらと今、思います。

第4位:地図作りのアルバイト
紙地図をこよなく愛する私にとって、地図を作る側に回ってみたかったですね。住宅地図のゼンリンでバイトをしたことはあるのですが、都市部の地図や山岳地図、海洋地図など、様々な地図作りをしてみたかったです。

第5位:時刻表作り
こちらも辞書、地図と同じく、「紙版」の時刻表が大好きであるがゆえに「やりたかったこと」です。時刻表を眺めるだけで旅気分を味わえるため、細かい数字や誤字・脱字・誤植などをチェックするバイトがあればしたかったですね。欄外の駅弁案内や巻末の座席案内・料金報・航空時刻表・ホテルリストなども好きで、いまだによく見ています。

第6位:ボランティア・ガイド
名所旧跡のボランティア・ガイドを二十歳のときにしてみたかったと思います。そのころはまだ日本史の知識が怪しく(今も変わらず・・・)、とても人様にご案内できるレベルではありませんでした。が、海外の方に喜んでいただきたいという思いはありますので、若いころに戻れればやってみたいです。

第7位:飲食店のホールスタッフ
お弁当店でバイトをしたことはあるのですが、カフェやレストランでの給仕経験は無し。これも二十歳のときにやってみれば良かったなと思います。私が大学生の頃は人気のバイトでした。他大学の学生や異年齢の人と知り合うチャンスもありましたね。

第8位:マスコミでのアルバイト
新聞社、テレビ・ラジオ局、出版社などで働いてみたかったです。時事問題に触れることで社会へのとらえ方がもっと広がったことでしょう。結局あの頃はチャンスが無いままでしたが、まさか今、その世界にいることになるとは・・・。

第9位:校正作業
かつて郵政省でバイトをしていたころ、郵政白書の校正を職員の方と二人一組でおこないました。文字や句読点、レイアウトなど実に細かい部分まで徹底的に見て修正するという作業でした。これが私にとってはとても楽しかったのですね。あのころ、校正記号をきちんと学んで、本格的にアルバイトでできたら良かったなと思います。ちなみに今、出先で英文看板などの誤植につい突っ込みたくなるのは、その名残かも。

第10位:朗読のバイト
児童への読み聞かせや目の不自由な方向けへの収録などを学生時代にやりたかったです。その当時から間(ま)の取り方を意識したり、分かりやすく読み方の工夫をしたりということに喜びを覚えており、その思いは今も続いています。

以上、二十歳のときにやりたかったことを列記してみました。明治大学の齋藤孝教授は自分の好きなことをリストアップする「偏愛マップ」を提唱されています。考えてみれば、上記の10個は私にとっての「偏愛対象」。学生時代からずいぶん経っていますが、改めてそのことに気づくことのできた、貴重な「妄想」でした!

(2020年4月7日)

【今週の一冊】

「御朱印 見かた・楽しみかた」八木透監修、メイツ出版、2012年

今から10年ほど前、激しくアクセスしていたFacebookを退会しました。あまりにものめり込んでいたからです。一度自分で計ったところ、一日2時間以上もどっぷりと漬かっていました。どうりで勉強がおろそかになったわけです。当初は「せっかくつながった友達と疎遠になるのでは?」と心配になりました。けれどもそれは杞憂で終わりました。なぜなら、本当に連絡を取り合う友達とは直接会ったりメールでやりとりしたりすることでつながり続けることができたからです。むしろ友達や「いいね!」の数から解放されたことで、ずいぶん楽になりました。

さて、そうして残った数少ない友人たちというのは、私にとって生涯の財産です。私は昔からおひとり様で行動するのが好きで、人とつるんだり大人数で何かをしたりというのが苦手。仲の良い友人とは一対一で会う方が落ち着けます。

そうした中、先日、数年ぶりに友人と再会しました。お互いに何かと慌ただしく、食事会が実現できずにいたのです。でも会うやあっという間に話に花が咲きました。これが友人関係の醍醐味です。

そのとき教えてもらったのが「御朱印」の話。名前は聞いたことがありましたが、「お寺や神社でいただくもの」というだけで何となく敷居が高く思えていました。けれども実際に御朱印を集めている友人から聞くと、とても楽しそう。ということで手にしたのが今回ご紹介する一冊です。

本書は全編カラー仕立て。まずは御朱印の始め方、揃える物の話から始まり、全国各地の御朱印が厳選されて紹介されています。神社とお寺では御朱印の印象が異なるのも興味深かったですね。解読の仕方も説明されており、こうした知識がわかると俄然集めたくなります。

最近私は日本史に興味が出ており、体系的に学びたいなと思っています。折しも世の中はコロナウイルスで通訳界も実は影響を受けている最中。ならば今こそ学びの時期ですよね。御朱印集めをきっかけに日本の宗教や歴史をじっくりと学習したいと考えているところです。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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