第434回 学びの最適解
3月に入るとそろそろ新年度の気配がしてきます。通訳学校やカルチャースクールなど、新学期のパンフレットが出始めますよね。「せっかく4月になることだし、ここは心機一転、何か新しいことを始めてみよう!」と思われる方もいるでしょう。何を学ぶか、どのスクールにするかを考えながら体験レッスンや説明会に出席するのは楽しいものです。学校との相性や自分のスケジュールの都合もあります。ぜひ納得のいく学校選びをみなさんもなさってくださいね。
私自身、これまで「学ぶ側」として長年過ごしてきた経緯があります。それこそ義務教育から高等教育に至るまでだけでなく、社会人になってからも色々な講座に参加してきました。現在通うスポーツクラブのレッスンを考えれば、ここでは私も一人の生徒ということになります。
そこで今回のこのコラムでは、どのような学びがモチベーションにつながるかを見てみましょう。キーワードは「講師」と「仲間」です。まずは以下の表をご覧ください。
ケース | 講師 | 仲間 | 総合評価 |
1 | 〇 | 〇 | ◎ |
2 | △ | 〇 | 〇 |
3 | 〇 | △ | △ |
4 | × | × | × |
これは私自身が学校を選ぶ上で考えた基準です。学校であれば通常、「教材」も大事になってくるのですが、ここではあえて除外して考えます。ではケース1から4をそれぞれ見てみます。
ケース1:講師の質が良く、仲間も気の合う人たち→通う気持ちになる
先生の授業も楽しく、お人柄も良く、さらに一緒に学ぶ人たちも良い方々ばかりという場合、その授業に一層通いたくなります。ディスカッションやグループワークなどをおこなう授業であれば、接点も増えますので学びの仲間も増えますよね。そのレッスンが待ち遠しくなります。
ケース2:講師の質はまあまあ、仲間は気が合う→それでも通いたい
授業内容はほどほどだけど、気の合う仲間がいるのであれば、そうした人たちと接することも学びの動機づけになります。
ケース3:講師の質は良いが、仲間と相性がイマイチ→通う動機も下がる
これは私自身が体験したことです。そのレッスンではグループワークがあったのですが、今一つ仲間との相性を感じることができませんでした。先生は悪くなかったのですが、何となくそのレッスンからは足が遠のいてしまいました。
ケース4:先生も仲間も自分とは合わない→モチベーションは下がる
これは自明の理ですよね。要は相性の問題なのですが、私はこのような状況を自覚した時点で、通うことを止めてしまった経緯があります。「せっかく高い授業料を払ったから」と当初は頑張って通学していたのですが、結局授業時間が苦痛になり始めたのです。「確かにもったいないけれど、これなら自宅で本を読んでいる方が楽しい」と気付き、達観できました。
いかがでしたか?学びにおける要素というのは、それぞれの人生観や価値観も関わることだと私は思います。大切なのは、自分自身が未知のことを知る喜びを味わえ、なおかつ周囲から刺激を受けてさらに向上を目指していけることだと考えます。ですのでどうかみなさんも独自の基準を大切にされ、「学びの最適解」を探してみてくださいね。
(2020年3月3日)
【今週の一冊】
「プレモダン建築巡礼」磯達雄・文、宮沢洋・イラスト、日経アーキテクチュア編、日経BP社、2018年
1月20日水曜日、エッセイスト・松浦弥太郎さんのトークショーが、青山はカッシーナ・イクスシーというイタリアのインテリアショップを貸し切って開催されました。限定50名という抽選制です。以前から松浦さんの文章は大好きで読んでいたこともあり、参加証を頂くという幸運に恵まれました。
トークの中では松浦さんご自身が「モノの見方」やご愛用品などを紹介してくださり、私自身、大いに開眼しました。たとえば腕時計一つを取ってみても、松浦さんならではの見方があるのです。普通、腕時計であれば文字盤を主に見ますよね。けれども松浦さんは時計を外し、真横や裏側から眺めるというのです。つまり、モノをとらえる際、通常の目の向け方ではなく、様々なアングルからとらえる大切さを私はこのとき初めて知ったのでした。
今回ご紹介する一冊も、建物をそのようにとらえた書籍です。明治から戦前にかけて建てられた建造物が写真やイラストとともに紹介されています。単に外側から眺めるだけでなく、柱の詳細部分や手すりなど、テーマを決めて解釈する楽しさが分かります。
私は以前からモダン建築に興味があることから、本書は実に楽しめました。日本の建築の礎を築いたのがイギリス人のジョサイア・コンドルで、その門下生に片山東熊(かたやま・とうくま)と辰野金吾(たつの・きんご)がいます。この二人がなかなかのライバルであったエピソードなど、人間味が溢れており魅了されます。辰野は苦労人、片山は良家のお坊ちゃま。片山は今の迎賓館を作ったことで有名ですが、明治天皇に完成のご報告に上がるや、「豪華すぎる」とあっさり言われてショックを受けたという話も出ていました。
一方、辰野金吾は今も日本橋にある日本銀行本館を手掛け、完成から4年後には日銀の図柄が当時の100円札に掲載されました。そのときの辰野金吾は若干46歳。古の人たちが使命感に燃え、若くして国のために尽力した様子が本書からは把握できます。
私にとってこの書籍の最大の魅力は宮沢洋氏のイラスト!手書きの文章も読みやすく、知らず知らずに建築の知識をインプットできます。しかも宮沢氏は早大政経卒という根っからの文系なのに建築ひと筋というのも素敵です。本書を読むと、建物への見方が変わること請け合いです。
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