第426回 何でも糧になる
2020年が始まりました。今年は東京でオリンピック・パラリンピック大会が開催されます。アメリカでは大統領選挙が行われ、ベートーベンは生誕250周年を、ナイチンゲールは没後110周年を迎えるなど、盛りだくさんの年になりそうです。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、今年の私のキーワードは「何でも糧にする」です。人生、生きていれば色々なことがありますよね。良いこと悪いこと含め、誰でも経験することです。ハッピーな出来事が続けばもちろん幸せになれますが、いつもそうとは限りません。そのような際にもあまり振り回されず、淡々と受け止めると同時に、それらを糧にして生きていきたいと私は考えています。まだまだ私自身、実践・発展途上です。
1か月ほど前のエピソードです。
暮れも押し迫る中、私は立て込んだ日々を送っていました。その日も早朝の放送通訳シフトを終え、帰りの電車の中で「帰宅したらあれをこうやって、こっちをこうして・・・」と考えていました。自宅に戻ったらすぐに仕事に取り掛かりつつ、家事もせねばならなかったからです。
玄関を開けて靴やコートを脱ぎ、カバンの中身も出して「さあ、仕事!あ、でもその前に携帯のチェック」とスマートフォンを確認したところ、子どもからのLINEが。「熱出たので早退する」とのメッセージでした。読み進めると、あと数分で最寄り駅に到着するようです。
インフルエンザの恐れもあるでしょうからそのまま病院へ直行すべく、診察券・保険証を薬箱から取り出しカバンへ。待合室で待つことを考えて自分の仕事道具も入れて駅まで迎えに行きました。
幸いすぐに病院で診て頂き、薬も処方されました。この日はいつにもなく私の仕事が立て込んでおり、しかも当日の寒さで自宅は寒冷地状態、食材も残り物も危うい状況だったことから、子どもは近所に住む義父母のところで夕方まで預かってもらうべく送り届けました。
そして私一人が帰宅。原稿執筆に授業準備等を大急ぎでスケジューリングし直して取り掛かり始めました。
実はこの日、色々なことがありました。たとえば夕食準備のとき、水仕事を始めたところ指に激痛が。指先が冬の「パックリ割れ」をしていたのでした。応急処置して再び夕食準備。すると電話がかかってきました。電話の応対をしていたところ、突然大停電。・・・という名のブレーカー落ち!レンジやヒーターなど一気に使い始めたためでした。ハイ、電話も途中で切れました。
ガス漏れ防止にまずはコンロの火を消し、真っ暗闇の中で懐中電灯を探し出しました。ブレーカーのスイッチは高すぎて届かないので棒になるようなものを探して再度スイッチを上げて電力復活。「あ、電話切れてた!」と慌てて先方へコールバックしてという、何ともまあドリフのような(←例が昭和ですね)展開となったのでした。
この日は早朝シフトに始まり、子どものお迎えからブレーカー落ちに至るまで色々とありました。ここまで盛りだくさんだともう何も怖くなくなります。こうなると状況を嘆くよりもむしろこれを自分のネタにして、友達に話して一緒に笑ってもらおうという気になります。
「笑い飛ばす」という考え方を実践してくれたのは学生時代の友達でした。彼女は別の大学に通っていたのですが、久しぶりに会うと「ねえねえ、聞いて!ウチの実家、火事になってん。お兄ちゃんの寝たばこ!」と笑顔で言ってきたのですね。彼女は関西出身なのですが、それほど大変なことがあったにも関わらずそのネタで場を和ませ、そこに居合わせた皆で「うわ、大変だったね」と心を寄せつつも彼女の明るい話し方からなぜか笑いまで出てしまったのでした。
以来、私も大変なことがあってもその当時の彼女のことを思い出しています。ハードなことがあったとしても、きっと後で笑い飛ばせる。そう考えると、なぜか元気が出てくるのです。
この方法は通訳現場において、大変な緊張を強いられたり、叫びたくなるような(?)予習をせねばならなかったりした時でも「後でネタにしよう」と思わせてくれます。お陰でこの仕事を長きにわたり続けることができています。
ということで何事も糧にしてしまうと私の場合、気持ちも上向くようです。今年もそうしたアプローチで日々を歩みたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
(2020年1月7日)
【今週の一冊】
「初代伊藤忠兵衛を追慕する―在りし日の父、丸紅、そして主人」宇佐美英機編著、清文堂出版、2012年
読書というのは私にとって「芋づる式」です。何かがきっかけとなり広がっていくこともあれば、一冊を機に別のテーマに関心が移り、そこからどんどん派生していきます。以前は関心に応じてその勢いと共に本を購入していました。しかし読むスピードと自分の関心情熱(?)が追い付かず、積読と化すことが何度もあり反省。よってここ数年はもっぱら図書館から借りています。熱が高いうちに読み切れれば良し、そうでなければ返却あるのみと割り切っています。
今回ご紹介するのは伊藤忠商事の創業者・伊藤忠兵衛に関する一冊です。この本を借りるまでの経緯は以下の通りです:
幼少期にロンドンで暮らしていたころ、友人のお父さんが伊藤忠勤務だった→伊藤忠商事の具体的業務内容をわからずとも、何となく会社への好感度大→2010年、元会長である丹羽宇一郎氏の本を読み感銘を受ける→感動の手紙を出版社気付で送付→中国大使に就任されたばかりの丹羽氏より直筆のお礼状が届く→ますます伊藤忠のファンになる→伊藤忠という会社の成り立ちに興味が沸く→本書へ
このような感じです。
伊藤忠の創業者は初代伊藤忠兵衛。1858年に麻布類の卸売を始めたのがきっかけでした。創業地は滋賀県にある現・豊郷(とよさと)町です。この辺りは近江商人の活躍で知られています。近江商人といえば、「三方よし」が有名ですよね。これは売り手・買い手の満足だけでなく、社会への貢献も大事であるという考えです。この考えがやがて日本経済の発展に寄与しています。
本書は初代忠兵衛について、二代目忠兵衛や当時の店員たちによる文章がまとめられています。初代を陰で支えた夫人についてもページが割かれています。
私はこの本がきっかけとなり、豊郷町にある伊藤忠兵衛記念館まで出かけてみました。のどかな光景が広がる滋賀の地において、ここまで世界を見据えて活動をしていた先人がいたことに非常に感銘を受けました。しかも忠兵衛だけではありません。近江には世界に羽ばたいていった人たちが沢山いたのです。
物資も不足し、それこそ今のような電子辞書もデジタルグッズもないような時代に、世界を相手に日本の経済を支えていった人たちがいます。そうした偉大な方々へ思いをはせることのできた一冊でした。
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