第390回 自分に合った最適解を
以前このコラムでひたすら片づけをしていた状況を書きました。2月上旬のことです。1月にイギリスへ出かけた際、片づけコンサルタントの「こんまり」さんこと近藤麻理恵さんが大ブレイクしていた様子を目にし、触発されたからです。ロンドンのホテルでこんまりさんのウェブページや動画などをひたすら視聴しました、「帰国したらとにかく片づけよう!」と意気込みながらシミュレーションしたほどです。帰国日にはヒースロー空港の搭乗ゲート手前の書店で「ときめき」本の英訳版も入手。羽田到着まで一睡もせず、一気に読み切ったのでした。
こうして片づける気満々で帰宅。荷ほどきもそこそこにその日からひたすら片づけました。こんまりさんが唱えるように「衣類・本・書類・小物類」の順で大々的に断捨離したのです。本に書かれていた通り、衣類から片づけていくと本当にピッチが上がっていきます。洋服に関してはくたびれていた時代遅れのファッションともおさらばできました。書籍も仕事関連の書類も見直すきっかけになり、家の中がすっきりしました。
本に書かれている順番で言えば、残すは「思い出の品」です。こんまりさんの考えによれば、片づけと言うのは時間をかけるよりもむしろ一気に取り組むことが大事とあります。ペースが上がったらそのまま勢いで行った方が効率的だからです。私も同感で、衣類から小物に至るまでの片づけは実に順調でした。
が、思い出品に取り組む直前で「失速」してしまったのです。写真やDVD、子どもたちのノートや作品などは手付かずのままとなりました。いえ、多少は動かしたり見返したりはしたのです。けれども、それこそ「アルバムからすべての写真を取り出して要・不要を決めて絞り込む」ということは出来ずじまいで今に至っています。
なぜそうなったのでしょうか?以下がその理由です:
(1)小物類まで片づけてだいぶ家の中がすっきりし、それで満足してしまった
(2)思い出の品、とりわけアルバムの中を出すことにどうしても抵抗感があった
(3)子どもたちのノートや作品は、いくら母親とは言え私が勝手に処分できない
ざっとこのような具合です。子どもたちがこんまりさん並みにお片づけが好きであったり、過去の思い出に対してサバサバしていたりというのであれば、これらのモノは一気に片づいたでしょう。けれども我が家の場合、そうではなかったのですね。私自身は元々片づけが大好きですので、ことアルバムに関しても日付順に整理して収納していました。アルバムの背表紙に「開始・終了年月日」や通し番号も振っています。それ自体が私の中では完結しているため、わざわざまた中身を出す気分になれなかったのです。
思い出の品が未完ということだけ見れば、私はこんまりメソッドを「修了」することはできませんでした。不完全燃焼の感はあります。ただ、こうも考えられるのです。世の中に出版され、ベストセラーとなっている本(片付けや英語学習、自己啓発本など)はいずれも著者ご本人がそのライフステージやライフスタイルにおいて成功した方法であるのだ、と。万人に全項目があてはまるとは限らないのだ、と。すなわち、「まずは本にある通り取り組んでみる→うまくいく方法は取り入れる→自分に合わない部分はあきらめても構わない」ということだと私は思うのです。
写真を始めとする思い出品に関しては、このような事情から取り立てて手を付けず、現在に至っています。他のモノは大幅に減らせたのですから、思い出品に関してはこれで良しとしようと私は結論付けました。著者の述べる通りにできなかったからと言って自分を責める必要はないのです。
もう一つ。こんまりメソッドではシャツやスカーフなどを丁寧にたたみ、引き出しの中で立てて収納することを推奨していました。私もやってみたのですが、洗濯後に畳むことで、布のくたびれ具合や背中部分の毛玉やシミなどに気づくことができ、畳むメリットを実感しました。以前はハンガーごとすぐクローゼットにしまっており、そこまでチェックしていなかったからです。
しかし、仕事やスケジュールが立て込んでくるにつれ、これが負担に思えてきました。畳んでしまうためには私の場合、「乾いた服をハンガーから外す→平らな場所で畳む→クローゼットを開ける→引き出しを開ける→色がグラデーションになるようにして立てて入れる→引き出しを閉める→クローゼットを閉める」となります。合計で7アクションです。これが私には次第にストレスになってしまったのですね。
結局、以前のように乾いた服をハンガーごと自分のクローゼットまで持っていき、「クローゼットを開ける→ポールに吊るす→クローゼットを閉める」という3アクションにすることで落ち着きました。すでに服は断捨離してポールもスカスカになっていますので、シャツやスカーフ類をハンガーごとかけてもさほどきつくはなりません。これで落ち着きました。
よって今回の結論。「試行錯誤」を厭わず、自分に合った最適解を求めることが一番の答えということになります。日常生活然り、仕事然り、英語学習然りです。
(2019年4月2日)
【今週の一冊】
「ブレグジット秘録 英国がEU離脱という『悪魔』を解き放つまで」クレイグ・オリヴァー著、江口泰子翻訳、光文社、2017年
終わりの見えなくなってきたイギリスのEU離脱問題。CNNでも連日報道されています。看板キャスターのリチャード・クエスト氏でさえ、その複雑さに番組内で音を上げていたほどです。メイ首相は自らの辞任と引き換えに修正案の可決を求めました。しかしそれもうまくいかず。まさに先行き不透明となっています。
本書が日本で発行されたのは2017年。すでに2年が経過しています。ではなぜそもそもブレグジットになったのでしょうか?どのような人々がどういう形で関わってきたのでしょうか?こうした疑問を時系列で知る上で非常にわかりやすく綴られているのが今回ご紹介する一冊です。著者のオリヴァー氏は元ジャーナリスト。キャメロン政権で政務広報官を務めています。同氏が政権の内部からとらえたEU離脱問題が本書には克明に描かれています。
ブレグジット関連本はすでに沢山世に出ていますが、本書のポイントは「メディア対策」。閣僚たちがどのようにマスコミに応じたかがわかります。冒頭にはカラー写真もあり、過日亡くなった自由民主党・アシュダウン元党首の姿もありました。
個人的に非常に参考になったのが、巻末に掲載されている在英ジャーナリスト・小林恭子氏の解説です。「ブレグジットが複雑すぎてわからない」という方はここから読んでも良いでしょう。
600ページ強という大作ですが、注釈も随所にあり読みやすくなっています。個人的な希望を言うならば、ぜひとも巻末索引が欲しいところ。原書版には付いていますので、翻訳版も多少価格が上がっても良いので付けて頂ければと思います。
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