INTERPRETATION

第387回 新幹線でのお楽しみ

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

「子育てと通訳業の両立、どうされましたか?」

セミナー会場でよくいただく質問です。確かにどのようにバランスをとるかは悩みますよね。我が家では子どもたちが小さかったころ、4月入園の認可保育園は最初から考えず、あくまでも我が家ペースで産休・育休・職場復帰を図りました。ですので、保育園デビューも年度途中です。「予算が大変だったのでは?」と言われましたが、それよりも良きタイミングで通訳業務に復帰したいと考えていたのです。我が家に関してはこの決断で良かったと思っています。

ただし、子どもたちが小さいころ、あえて意識したことがあります。それは「泊りがけの出張はなるべく控える」というものでした。まだまだ手がかかる年齢でしたし、私自身、年子の子育てでかなり体力がギリギリだったからです。

地方出張を入れるようになったのは、自力で子どもたちが身の回りのことをできるようになってからです。そのころから放送通訳業もメインになっていきましたので、今でも出張というのは少ない方かもしれません。

とは言え、私自身、旅は大好きです。よって「新幹線出張」となると、たとえハードな仕事が先に控えていても心の中では小躍りしてしまいます。そこで今回は、私が新幹線で楽しんでいる「車窓ウォッチング」をご紹介しましょう。

1.屋根に注目
東海道新幹線の場合、東京を出てから関西に到達するまで、いくつかの県を横断します。実はどこも地方色豊か。屋根をよーく見てみると、特に愛知や岐阜、滋賀県などで美しい黒塗りの瓦屋根を目にします。しかもどのお宅も大きい!日本の美しい光景です。

2.沿線の立て看板
なぜか私にとって気になるのが沿線の立て看板。「727」化粧品の看板が圧倒的に多いですね。昔からそうです。デパートや小売店ではあまり見かけないメーカーですが、新幹線乗客への訴求力は圧倒的にあると思います。

3.場所当てクイズ
「のぞみ」のように猛スピードで走っている場合、今、自分がどのあたりにいるのかわかりません。グーグルの現在地情報をあえて見ず、周囲の光景から予測するのも楽しい作業です。たとえば地元校舎に書かれている校名、自動車ディーラーの支店名など、遠くからでも見える看板があります。そこから当ててみるのです。

4.車両基地探し
新幹線だけでなく、沿線の在来線用の車両基地が実は結構あります。貨物線専用もあり、様々な車両がとまっています。東京では見られないカラーの車体も魅力的です。

5.ドクターイエローを探せ!
ドクターイエローとは新幹線の保守点検をする専用車両。車体全体が黄色です。新幹線の時刻表には掲載されていませんので、いつ運行されるかは非公開。ゆえに鉄道マニアには大人気です。先日の大阪出張からの帰路、名古屋駅で私はドクターイエローを発見!鉄道マニアの皆さんが芸能人の追っかけのごとく、重いカメラを担ぎドクターイエローめがけてホームをダッシュしていました。

6.団地=工場
広大な平地になぜかニョキッと建つ団地。「周囲には土地がたくさんあるのに、なぜ?」と思いませんか?実は私自身、最近になってようやくわかりました。答えは「社員寮」。つまり、そうした団地の近くには必ず大規模な工場があるのです。

7.ガスタンク・橋・風力発電・観覧車
遠くからでも目立つものと言えば、ガスタンクのような大型建造物。でもよく見るとガスタンクや橋などにも多様な形があります。風力発電のファンには企業名が書いてあることも。観覧車は夜、遠くから眺めるとライトアップしていてきれいです。

8.ポツンと集落
あっという間に通り過ぎてゆく新幹線ですが、所々、山に囲まれた集落が新幹線の沿線にあることに気付きます。ほんの4、5軒の家です。「日本の原風景VS新幹線」というのは何ともシュールな感じです。

9.雲に注目
雨の日の新幹線。山の麓まで雲が垂れこめていることもあります。こうした風景を見ると私は中国の水墨画を思い出します。自然の中でゆっくりと流れる雲に注目です。

10.山の頂上にも視線を
新幹線に乗っていると、日本は山国だと改めて感じます。頂上へ目をやると、電波塔が建っていたり、お寺や神社があったりします。山の途中に普通の民家もあります。あそこまで下からどのように上がっていくのかしらと想像するのも楽しいです。

今回は「シバハラ版・新幹線の楽しみ方」をご紹介しました。みなさんもたまにはデジタル画面から離れて、新幹線の旅をエンジョイしてくださいね。

(2019年3月12日)

【今週の一冊】

「『片づけなくてもいい!』技術」辰巳渚著、宝島社新書、2011年

ここ数週間続けてきた大々的な片付け。こんまりさんのメソッドで行った結果、あとは思い出品だけを残すところとなりました。本来であればこの春休み中に実施したかったのですが、2月から3月にかけて立て続けに仕事があり、片付けは目下お休みです。それでも書籍だけは色々と読み、今後の参考にしたいと思います。

今回ご紹介するのは、辰巳渚さんの一冊です。「『捨てる!』技術」が大ベストセラーとなったのが2000年。以来、時の人となりました。しかし昨年6月に交通事故で亡くなられてしまったのです。若干52歳でした。

こんまりさんにも大きな影響を与えたという辰巳さん。どのようにして捨てるのか、どうやってモノと向き合うのかという考えには一貫性があります。本書の「片づけなくてもいい」という題は一見矛盾して見えますよね。けれども、なぜモノがあふれてしまうのか、どうして片づけざるを得なくなってしまうのかを環境的・心理的に分析しているのが本書です。

たとえば「椅子があると人はひっかけたくなる」「上があると物を置きたくなる」など、誰にも覚えがある習慣がここでは紹介されています。私もかつては水平面があればそこにモノを置きたいタイプでしたし、背もたれに何かをひっかけることがよくありました。けれども、それこそがモノあふれのきっかけと気付いて以来、なるべくそうならないよう意識しています。

中でも私のツボにはまったのが、「人は箱の魅力から逃れられない」というくだり。家電の箱、お菓子の缶など、なぜ私たちはついつい保管しておきたくなるのでしょうね。その答えが本書には出ています。

日本では年末に大掃除をしますが、アメリカではspring cleaningと言います。季節はもうすぐ春。おだやかな日々の中、本書を参考に片づけをしてみるのも良いですよね。

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

END