INTERPRETATION

第47回 仏検3級を受験して

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

3年前から私はフランス語を学んでおり、11月20日(日)には仏検3級を受験しました。自己採点では91点です。うっかりミスや見落としがなければ何とか念願の合格証書を手に入れられそうなので、まずはホッとしています。そこで今回は、受験に当たって心がけたことなどを10つのポイントにまとめてみました。

1.1つの教材を信じる
そもそもの学習目的は、「フランスのテレビや新聞を原語で味わいたい」というものでした。普段、英語で放送通訳業に携わっているため、他言語による視点を知りたかったからです。ただ、通学するには時間的にも難しかったため、公文の通信講座を受講することにしました。当初はラジオ講座やオンラインの無料サイト、iTunesなども活用していたのですが、手を広げすぎた感が出てきたため、ここ1年は公文教材のみに絞っています。一つの教材を信じること、徹底活用することは、いい意味で割り切りにもつながりますので、学習がやりやすくなりました。

2.紙の辞書を愛用する
移動中のことを考えれば電子辞書の方が合理的でしょう。けれども紙の辞書であればページの見開きでたくさんの単語に触れることができます。教材で出てきた新出単語は毎回きちんと調べて下線を引き、例文を音読するよう心がけました。なるべく例文の登場人物になりきりながら、気持ちを込めて音読すると記憶に定着しやすくなるようです。

3.辞書巻末の文法説明を活用する
私が使っている仏和辞典には巻末に文法項目の説明があります。語法や不規則動詞の一覧など、多くの情報が掲載されています。公文の教材で新しい文法項目が出てきた際にはこの巻末を読み、追加の例文などを自分なりに書き込んでいきました。辞書ゆえに余白は限られているのですが、細かい字で書きこんでいったことで「マイ文法書」が出来上がりました。

4.周囲のフランス語に注目してみる
たとえばパン屋さんのパッケージ、ジャムの瓶、フランス絵画美術展のパンフレット、CDの解説など、フランス語が書かれているものは探すと結構あるものです。そうした「世間に何気なく存在するフランス語」を探すよう心がけ、音読したり辞書で単語を引いたりするようにしました。こうした積み重ねも楽しい作業です。

5.不規則動詞は必ず音読する
フランス語は英語以上に不規則動詞がたくさんあり、現在形、未来形、過去形などが人称・性・数によって異なります。そうした動詞が出てきた際には必ず音読し、リズム感をもって覚えていくよう心がけました。

6.試験2週間前から教材を音読
それまで自分が取り組んできた公文の教材をひたすら音読していきました。古い教材を引っ張り出してみると、案外忘れていた文法や単語があったため、とてもよいおさらいになりました。

7.対策・過去問題集は1冊に絞る
仏検3級用の問題集も色々と市販されていますが、私は公式問題集のみを購入しました。本の前半にはパートごとの例題と解説が出ており、後半が過去問になっています。そこで私は試験1か月前からまずは例題から取り組んでみました。ところが文法を十分おさらいしないまま試してみたため、散々な回答になってしまったのです。それで試験勉強自体がおざなりになってしまいました。けれども気を取り直して得意分野(私の場合、リスニングや長文)の例題に取り組み、自信を再度つけることでペースをばん回することができました。

8.出題者の意図を考える
試験当日、苦手な文法問題に関しては出題者の意図を把握するよう努めました。「第1問では現在形の動詞がカッコに入ったから、第2問以降でもまた現在形を問うことはないのではないか?むしろそれ以外の未来形や過去分詞、接続法などが問われているのでは?」という具合に考えてみたのです。試験の出題者は受験者がまんべんなく力をつけているか測るわけですので、そうした推測も大切だと思いました。

9.会場の場所と時間は再確認!
実は試験当日、会場だけはおさえていたものの、「14:30開始」をなぜか「14:40開始」と勘違いしていたのです。もともと余裕を持って会場に着いていたので良かったのですが、もしギリギリだったら受験できなくなったかもしれません。念には念をと改めて思いました。

10.検定試験は実力を測るもの
最近は英語の検定試験で「いかに対策をたて、いかに早く得点をアップさせるか」ということが注目されています。昇進や就職のために、一定の点数が必要というわけです。けれども検定試験というのは、対策をたてたからすぐに点に反映されるとは限りません。むしろそれまでの日々の勉強がどれだけ身についているかを知るための手段だと私は思っています。今回私自身、フランス語検定を受けてみて、まだまだあやふやになっている文法項目や単語があることを改めて知りました。そうした「気づき」をもたらしてくれるのが検定試験だと私は考えています。

(2011年11月21日)

【今週の一冊】

「救命 東日本大震災、医師たちの奮闘」海堂尊・監修、新潮社、2011年

監修者の海堂尊氏は「チーム・バチスタの栄光」で一躍有名になった方である。外科医などを経て現在も医療関係の業務に従事する。その海堂氏が東日本大震災で活躍した医師9人を取り上げたのが本書である。

どの医師も、被災しつつ医師としての使命を果たそうと懸命にあたっていたのが行間からにじみ出ている。個人的には、雑誌「TIME」で「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた菅野武氏が印象的だった。被災当時、夫人は第二子出産直前。家族と連絡が取れない中、自らが勤務する病院で患者たちを救おうと奔走した様子が描かれている。のちに救援に来たイスラエル医療団とのやりとりも胸を打つ。こういう場面ではなまじ通訳者が間に立つよりも、同じ業種の人間同士が片言の英語でもコミュニケーションをはかった方が通じ合うのではないかとさえ思った。

大震災から8か月が過ぎた。計画停電も過去のことばとなり、節電にあやかった商戦も展開されている。けれども現地ではなお避難所生活を続けている人たちがおり、復興活動が進められている。今の時期こそ、大震災や原発について私たちは改めて真剣に向き合うべきではないか。そんな風に私は感じている。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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