第45回 最大の時間節約法
ここ数年の私は放送通訳業、英語の指導、執筆業の3本柱で稼働しています。幸い新しい分野の仕事をいただくこともあり、自分にとっての新たなチャレンジをありがたく思っているところです。今まで挑戦したことのない分野の仕事は確かに緊張します。けれどもそこを切り開くことも、自分にとっては新しい息吹が吹き込まれることになるので、たとえ難しくても出来る限りやってみようという気持ちで日々挑んでいるところです。
ただ、その一方で慢性的な時間不足に見舞われてもいます。新しいことが自分の人生に入ってくれば、それまで行っていた何かをあきらめる必要があります。誰にとっても一日は24時間である以上、そして睡眠時間を削ることができない以上、「ひとつを得たらひとつを手放す」という気持ちでいなければ自分が消耗してしまいます。
そこで最近私は自分の時間の使い方を改めて見直してみました。そしてわかったのは、「気分転換と称してPC(主にネット)を眺めている時間が異様に多い」という事実でした。これをきっかけに時間の使い方を改善すべく、以下の10点を意識するようにしています。
1.メールチェックは返信できるときだけ
→PCを立ち上げた以上、ついついチェックしてしまうメール。でもその場ですぐに返信できるとも限りません。中には複雑なものや時間を要して返事を書くべきものもあります。「あとで」と思うとそれだけで脳ミソのキャパが減ってしまうので、思い切って「まとまった時間がとれて返信できるときのみ、メールソフトを立ち上げる」と決めました。
2.携帯メールや留守電も同様
→たとえば歩きながら携帯をチェックしても、集中して返信を打つことは私にとって難しいのです。こちらもまとまった時間に対応するようにしています。
3.マルチタスクを避ける
→「あれをやりながらこれをやって、こっちに取り組みつつそちらも対応」という具合に、私たちはその気にさえなれば複数のことを同時進行で行えます。でもこれもやはり集中力がそがれてしまいます。よって、一つのことを丁寧にやって完了したら次を行うという風に意識しています。
4.その作業の目的を考える
→たとえば私は早朝ジョギングをしているのですが、走り出す前にその日の目的を考えています。「昨晩食べ過ぎたから今日はしっかり走ろう」という時は呼吸や筋肉の使い方を意識します。一方、「来週の授業ネタを考えたい」というときは運動面よりも思考の整理にジョギング時間をあてるようにしています。
5.今この瞬間を「楽しい」と思い込む
→たとえば公開レクチャーに出かけた際、自分の期待と異なる内容だったとします。でも大事なのはいかに自分でその瞬間を「楽しい」と感じられるかだと思うのです。「へ~、そうなんだあ!」とあえて心の中で感動してみる。あるいは「どうしてもつまらないから、頭の中で講演者の話を同時通訳してみる」というのでも良いと思います。何かしら有意義な時間に転じることが大切です。
6.本当に必要か考える
→世の中はスマホ大ブーム。私も興味はあるものの、今のライフスタイルに絶対必要かといえば、さほどでもありません。今ある携帯で十分です。「みんなが持っているから」という漠然とした理由で入手して、使いこなすまで時間を費やすよりも、いよいよ必要になってからでも遅くないと思っています。あ、これは英語も同じですね。本当に必要でないならば、しゃかりきに勉強しなくても良いのではというのが私個人の考えです。
7.世の中への情報発信か、目の前の3人か
→ブログやツイッター、フェイスブックなど、最近は誰でも不特定多数に対して情報発信できる時代です。私自身文章を書くのが好きなので、何かを発信したいという気持ちはよくわかります。けれども先日読んだ地震学者・鎌田浩毅先生の文章で我に返りました。鎌田先生曰く、まずは目の前の3人を大切にしていくことなのだと。実は以前、子どもたちの対応を後回しにしてまでフェイスブックへの書き込みを優先したことがありました。でもよくよく考えたら、ネットでの発信よりも目の前の家族だと感じたのです。
8.思い立ったらすぐ実行
→「あとでやろう」というフレーズ。実は便利なようで一番物事を遅らせてしまうと思います。私の場合、以前は手帳にやるべきことを書き込んでいましたが、それより何より、今できるのならば今やってしまうのが一番の時間節約なのです。たとえば先日、和太鼓グループ・鼓童のコンサートを聞きに行ったときのこと。親子ともども大いに感動したので、「あとでお礼状(という名のファンレター!)を書こう」という話になりました。でも「あとで」では忙しさにかまけて忘れてしまいます。そこで家にあったカードに一言二言を親子で書き、コンサート翌日に投函しました。興奮冷めやらぬ状態で書けて良かったと思っています。
9.情報なしでも自力で考えられるか
→今の時代、何か疑問点が出ればすぐにネットで調べられます。ただ私は3月の大震災で携帯が不通となり、電池切れを起こしたという経験があるため、以来、「自力で考える」ことの大切さを痛感しています。たとえば「スマホアプリの地図がなくても自力で自宅まで戻れるか」などは良い課題です。太陽を見ただけで方角をつかむ、日ごろから目印となる建物を意識して歩く、広域避難所を覚えておく、公衆電話の場所を確認しておくという具合です。
10.結局は「目の前のことに集中するのみ」
→ここまで9つのポイントを見てきましたが、結論として言えるのは、「目の前のことに集中すること」だと思います。この文章をPCで入力している今も、「急いで入力するより誤字脱字を減らす」「文章の『てにをは』を考えて打つ」など、しっかりと集中する方が、後の校正時間を大幅に減らせます。目の前の作業一つ一つを丁寧に行うこと。結局はこれに尽きると思っています。
「アスリートたちの英語トレーニング術」岡田圭子・野村隆宏著、岩波ジュニア新書、2011年
岩波ジュニア新書というと「中高生が読むものでしょ?」という反応が返ってきそうだ。ところが侮るなかれ。大人が読んでも大いに参考になる書籍がたくさん発行されている。本書は今年の夏に発行された一冊で、増田明美、瀬古利彦、鈴木大地といった名選手たちの英語学習法が紹介されている。
スポーツ選手というと、その種目さえできればという風に思えてしまう。けれども実際は日本のみならず世界中へ遠征し、現地で滞在し、世界の選手たちと競うことになる。そのような時、英語が話せるとコミュニケーションも大いに円滑になる。本書で紹介されていたアスリートたちはいずれも独学で苦労しながら英語を身につけている。ただ、スポーツという「努力の継続」を体で知っている分、英語の学び方も実にしっかりしているのがわかる。
どの選手も共通して述べているのが、やはりコツコツと学び続けるという点だ。今の時代、私たちはつい「最小限の努力で最大限の効果」を英語学習に求めてしまう。おそらくダイエット同様、そうした商品広告の影響が強いからであろう。けれども「石川遼選手のゴルフDVDを見る『だけ』でスコアアップ」など決して達成できないのと同じく、英語もやはり自力で取り組まなければ上達はありえないのだ。
本書は毎日新聞のスポーツ記者である野村氏が選手の人となりを取材し、獨協大学の岡田教授が英語面での解説を加えている。これから英語を学ぼうという人、ちょっとスランプ中という人、スポーツ大好きという人などにぜひ手に取ってもらいたい一冊だ。
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