第43回 「どうして」ではなく「どうしたら」
私たちは何か嫌なことに直面すると「どうして?」という反応が最初に出ます。たとえば誰かの発言で傷ついた際に「どうしてあの人はこんなことを言うのだろう?」と思いますよね。子育てをしている人であれば、何度同じことを言っても改善しないわが子に「どうしてわからないの!」といら立ちを覚えることもあるでしょう。
私もそういう状況によく遭遇します。朝、体重計に乗って「どうして増えちゃったんだろう?」と思うことはしょっちゅうですし、放送通訳の現場で訳語に詰まったときも「どうしてこんな簡単な単語が即座に訳せなかったんだろう」と落ち込みます。毎日多かれ少なかれ、「どうして?」と思いながら生きているのです。
ところが最近読んだある書籍に、「どうして」ではなく「どうしたら」と考えることが提唱されていたのです。これはまさに目からうろこでした。「どうして」と考え続けてしまうと、原因究明ばかりにエネルギーが向いてしまいます。けれども、「どうしたら」と考えをシフトすることで、解決策へと向かっていくのです。
たとえば先の体重計に話を戻しましょう。「どうして増えちゃったんだろう?」と思ったところで、即座に体重が減るわけではありません。増えたことには理由があります。食べ過ぎたか運動不足かのどちらかです。ならば「どうしたら減らせるか」を考え、すぐに実行するのです。「今日はエスカレーターはやめて階段を使おう」「夕食時のご飯はお茶碗半分にしておこう」という具合です。
子育てはどうでしょう?たとえば食事中、何度注意してもぽろぽろと食べかすを落としてしまう子がいたとします。そのときも「前も言ったでしょ!ボロボロ落としちゃダメ!!」と言ったところで子どもはまだまだ発展途上。すぐに完璧に食べられるわけではありません。ならば本人に「どうしたらこぼさないで食べられるようになる?」と尋ねてみるのです。子どもは子どもなりに考えます。我が家の場合、「うーん、姿勢をちゃんとする」「他にあるかな?」「お箸をきちんと持つ」「あとは?」「呑み込んでからおしゃべりする」という具合でいくつか対案が出てきました。これらがすぐに実践されるとは限りません。けれども少なくとも「本人が考えた」ことに意義があるのです。
「どうして」は相手や状況の中に非を見出すので、意外と簡単にできてしまいます。一方、「どうしたら」と考えることは、自分の脳に負荷がかかります。必死になって解決策を考えることは、想像力も求められます。そうして苦労して編み出した考えだからこそ、自分の中に根付くのではないかと思うのです。
英語学習も同じです。「どうしてこんなにTOEICの点が低いんだろう?」と考えても落ち込むばかりです。ならば「点を伸ばすにはどうしたらいいだろう?」とブレーンストーミングをした方が前向きになれます。いくら優秀な先生に「このテキストがオススメですよ」「この学校が良いですよ」と勧められたとしても、本人が行動の一歩を踏み出すようなメンタリティーでなければ、状況は変わらないのです。
不満を言う代わりに対案を出すこと。「どうして」と状況を憂う代わりに「どうしたら」と解決策を考えること。こうしたことはいずれもトレーニングだと思います。私自身、一朝一夕でできるとは思っていません。まだまだ修行の身です。こうしてここに書いている私も、子育てや仕事において試行錯誤しています。これからも腐らず諦めず、「どうしたら」改善できるか、考えていきます。
本書は数年前に大ベストセラーになったもの。パート待遇だった著者が、いかにして乗客の心をつかみ、売上を大幅に伸ばしたアテンダントとなったかが記されている。副題は「カリスマ新幹線アテンダントの一瞬で心をつかむ技術」。
通読して言えるのは、とにもかくにも「相手が望むこと」を先に想像し、察し、心を配ることさえできれば、それが売り上げやサービスに反映されるという点である。「なーんだ、そんなこと当たり前じゃない!」と思われてしまいそうだ。けれども「相手が求めること」をどこまで先へ先へと回って考えられるか。実はここができそうでできない部分なのだ。いや、「やれるのにやらない」と言った方が良いのかもしれない。
アテンダントというのはカートに載せられた商品を列車の端から端まで売ればそれで済むかもしれない。けれどもそんな「やらされ感」で業務に当たるよりも、自ら工夫し、お客様の喜ぶ顔を見ながら仕事に打ち込む方がやりがいは出てくる。著者の齋藤さんはそのことをひたすら考え、自らリサーチしてアイデアを上司に出し、外部業者にも掛け合うというバイタリティの持ち主である。けれどもそれは齋藤さんが何も特別なわけではない。「どうやったらお客様は喜んでくださるか」ということをひたすら考え、それが原動力となって彼女を突き動かしたのである。
相手が望むことを考え、それを提供する。これは仕事に限らず、家族の間でも大いに当てはまると思う。本書を読んで私自身、子どもたちへの接し方が目に見えて変わった。ビジネス書としてのみならず、人間関係全般を知りたい人には参考になる一冊であった。
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