第42回 自分のできるやり方で応援を
これまでもこのコラムで何度か書いてきた「サービス」について、今回もお話ししましょう。
私は何かを購入したりサービスを受けたりする際、そのサービス提供者の「人格」が非常に大きいと思っています。たとえ高くても、売り手あるいはサービスを提供してくれる人がその商品を愛し、心から誠意を持ってこちらに向き合ってくれるのであれば、購入する価値はあると思うからです。世の中、100円ショップや格安グッズ、あるいは節約志向が高まってはいますが、そうした世知辛い時代に生きるからこそ、心のこもったサービスを受けたいと思っています。
我が家の近くに、個人で営んでいる自転車店があります。20年ほど前からやっているそうです。小さな店内には商品の自転車や備品などが所狭しと並んでいます。ほとんどが定価で売られていますが、私はこのお店で自転車を購入したのを機にこのお店のファンになりました。仮にA店としておきましょう。
なぜA店をひいきにしているのか。それはひとえに売り手であるオーナーさんが自転車を心から愛していることが分かるからです。かつて若かりし頃はたくさんのレースに出たらしく、店内には当時のゼッケンや表彰状などが飾られています。お店に一歩入ると、「ああ、本当に自転車が好きなのだな」ということが感じられます。オーナーさんはとても良心的で真心を込めたサービスをしてくれます。
我が家は家族全員がここで自転車を購入しました。子どもたちは週に2回、習い事に通っているのですが、いつもこのお店の前を通ります。オーナーさんは子どもたちの自転車の空気が抜けていると、サービスで入れてくれます。個人商店であるからこそ、本来はきちんと対価を払うべきだと思いつつも、いつも好意に甘えてしまっています。せめて我が家ができるのは、旅行先でお土産を買って持参したりするぐらいです。
そのような中、ちょっとしたことがありました。数か月前にこのお店の真ん前に別の自転車修理店ができたのです。「何も真正面に店舗を構えなくても」と思いましたが、自由競争の世の中です。それもありなのでしょう。そのお店は自転車修理以外にも飲み物を無料で提供するなど、独自の商戦で営業をし始めました。こちらをB店と呼ぶことにします。
ある日のこと。A店でタイヤの空気を入れていただいたとき、オーナーさんが私の自転車の後輪が壊れているのを見つけてくれました。スポークという、タイヤの中心から放射状に出ているワイヤが数本外れていたのです。「少しお時間いただければ直せますよ」というオーナーさんに、「これから自転車で出かけるので、あとで持ち込みます。ぜひお願いします」と私は返答しました。
その後、自転車をこぎ始めて信号待ちをしていたときのことです。横に並んだ中年の男性に突然声をかけられました。
「ちょっと差し出がましいかもしれないけれど、お宅の自転車、後ろのタイヤが壊れてるよ。危ないですよ。」
「ええ、そうなんですよ。ちょうどさっき自転車屋さんで見てもらったんで、あとで直してもらう予定なんです。」こう私はこたえました。
「私も同じようになったことがあってね。B店では300円で直してくれますよ。B店、300円ですよ、300円!」
「そうですか。さっきA店で見ていただいたんで後で持っていくつもりです。ありがとうございます。」
こう私は男性に答えて再び自転車をこぎ始めました。ところが背後から思いがけないつぶやきが聞こえてきたのです。
「A店なんてダメだよ。」
私は一瞬、自分の耳を疑いました。いったいなぜ、一個人であるあの男性がA店のことをあのように言わなければならないのでしょうか?私はしばらく考えました。「もしかしてB店のオーナー?」「B店の親族?」「ネガティブキャンペーン??」など、自転車をこぎつつも不可解な気持ちでいっぱいになりました。何にしても、誠実にお店を営むA店を悪く言われ、まるで私自身が非難されたような悲しい気持ちになってしまったのです。「A店は良心的なお店ですよ」と即座に反論できなかった自分に対してモヤモヤ感が出てきたのも事実です。
帰路、B店の近くを通りがかった私は「さっきの男性がオーナーならば、よほど反論しようか」とさえ思いました。しかし遠くから店内を見る限り、あの男性の姿はありません。けれども考えれば考えるほど何だか悔しいのです。ならば私はどうすれば良いか、しばらく考え続けました。
そこで思いついたのです。B店を悪く思うのではなく、A店のファンを増やそうと。A店はおなじみのお客さんがよく来ています。私が空気を入れていただいている時も、近所の住民がオーナーさんに道すがら声をかけたりしています。近くの大学生が立ち寄ることも多く、年齢を問わずこのお店が支持されているのがわかります。ならばもっとこのお店の良さを知ってもらおうと私は考えました。
そこでどうしたかと言うと、地元のフリーペーパー編集部にメールを送ったのです。「我が家の近所に実に良心的な自転車店があります。個人商店が大型店に押されて廃業する中、ここはとても頑張っています。機会がありましたらぜひ取材をしてください」と書き、送信しました。
まだ編集部から反応はありませんが、少なくとも私なりにできることをやれば何か小さいながらも変化は生まれるはずです。地元の良きお店は地元で応援していく。そのために自分ができることをこれからも考え続けたいと思っています。
「[書類・手帳・ノート・ノマド]の文具術」美崎栄一郎著、ダイヤモンド社、2011年
著者の美崎氏は花王に務める現役サラリーマン。だがその一方で文房具への造詣も深く、これまで文具術などに関する著作を世に生み出してきた。本書は仕事の効率を上げるためにどのような文具があるかを詳細に記した一冊である。
中でも印象的だったのが、ちょっとしたヒント。たとえばシャチハタをまっすぐに押すために目玉クリップを使うという方法があった。これは目玉クリップをシャチハタに挟むことで取っ手のようにし、中心を簡単に合わせるというものである。ほかにも先方に封書を送る際、のりで封筒を閉じるのではなく、マスキングテープを使うというのも興味深かった。テープの端を折り返すことにより、受け取った方もすぐにはがせるという利点が述べられている。受け取り手のことを考えた送り方だ。
クリアホルダーを10枚と決め、現在進行形のプロジェクトを10個以内に収めるというのも斬新なやり方だと思う。同時進行でやっているからとどんどんホルダーを増やしていくのではなく、自分が把握できるプロジェクトを10個と定める。増えそうになったら一つ終了させてホルダーを空にするというのも、実は大切な方法だと思う。
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