INTERPRETATION

第41回 ノートの使い方を変えてみた

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

私は手帳やノートなど、これまで色々な使い方の変遷を経て今に至っています。手帳に関しては中学時代の生徒手帳に始まり、キャラクター手帳やシステム手帳など、様々な種類を試しては自分にピッタリ合うものを探し続けてきました。つい最近も某セミナーで時間管理について学んだのがきっかけとなり、その主催団体が提供するタイプを用いていました。ただ結局のところ、自分のライフスタイルやライフステージを考えた結果、軽くて持ち運びしやすいものが今はベストという結論に至ったのです。このため、現在はもっぱら市販の綴じ手帖でカレンダータイプのものを愛用しています。

一方のノートはというと、通訳者になって以来、こちらも色々な試行錯誤がありました。デビュー当時は分野別に単語メモを作ってファイリングをしていましたが、その後、テーマが重複する内容になるとファイルしきれなくなり、単語帳自体の作成をやめました。その代わり、時系列にノートを使うことにして、仕事でいただいた名刺も通訳メモノートに貼付することにしたのです。あとで見直す際には日付さえわかれば、すぐに目的ページにありつくことができます。これは便利でした。ただ、大量にノートをとったり資料・名刺などを貼りつけたりしますので、ノートは分厚く、大きめのA4サイズぐらいでないと使い勝手がよくありません。しかし出先のコンビニでA4サイズが入手できるとも限らず、結局この方法も長続きしませんでした。こうした変遷を経て、現在は100円で入手できる普通の大学ノートを使っています。

さて、この大学ノートをどう効果的に活用するかが私にとっては追究テーマとなっています。当初はごくごく普通に左から右の横書きで文字を記入していました。しかし最近になって、「通訳メモのようにページの真ん中に縦一本の線を引いたら書きやすくなるのでは」と思ったのです。ただ、その都度線を引くのは手間がかかるため、ページを縦に折って使ってみたところ、想像以上に書きやすいことがわかりました。主に以下の3つのメリットがあったからです。

一つ目は、大学ノートの一ページを通常通り左から右へ書いた場合、手を動かす幅は左から右までとなります。けれどもページの真ん中で折り返せば、ペンを持つ手をほとんど動かすことなく、次の行に続けて書くことが出来るのです。これは労力の節約になると思いました。

2点目はノートを読み返す際、目の動きも少なくなるという点が挙げられます。横組みの雑誌を思い出してみてください。ページの左から右までびっちり文字が埋まっている代わりに、段組みがなされているので、一つのページが複数の段からなりたっています。これも読みやすさのためです。私が「ノートの半分まで書いて途中で折り返そう」と思ったのは、昨年読んだ「ヤフー・トピックスの作り方」(奥村倫弘著、光文社新書、2010年)がヒントになっていました。ヤフーのトップページに掲載されるニュースヘッドラインはいずれも13文字です。なぜ13文字なのかと言うと、それが人間にとって一番識別しやすい長さだからだそうです。そこからヒントを得て、ノートもそれぐらいの文字量でとるのが良いと思った次第です。

三つ目のメリットは「ノートをゆったりと使うようになった」という点です。かつて左から右まで記入していたころは、罫線上にきちんと書いていました。そのため、たとえ余裕のあるA罫でも、文字の大きい私が書くと紙面が文字だらけになってしまったのです。ところがノートを縦半分にするようになったところ、罫線を意識せずに書くようになり、ゆとりをもってノートを使うようになりました。こうすることで後から情報を余白に補足しやすくなりました。

さらに決定的だったのが、先日読んだ本でした。吉澤ゆか著「アイデアがあふれ出す 行動が加速する 1本線ノート術」(アスキー・メディアワークス)です。著者の吉澤さんはかつて秘書を務めた経験から速記ノートを愛用しており、そこにヒントを得てノートに一本の線を引くことを提唱しています。吉澤さんは一本線の左側に「学んだこと」を書き、右側に「思いついたこと」や「今後の行動計画」などを書き込む方法を紹介しているのです。これが実に体系的でわかりやすく、私にとっても大いに参考となりました。「ノートはちまちま使わなくて良いのだ。もったいないと持っていたらのびのびと思考を拡張できない」と改めて思うことができました。

こうして私のノート活用法は現在進行形で変化しています。今後も良い方法があれば、また、自分のライフステージに応じても、変化を恐れずに色々と変えていきたいと思っています。

(2011年10月3日)

【今週の一冊】

「ネイティブは見た!ヘンな英語」エイミー・ワインスティン、ディスカヴァー、2011年

本書は日本在住のワインスティンさんが、日常生活で見つけたトンデモ面白英語を紹介している。

私たちは日々の生活の中で英語を見かける機会がたくさんある。駅の表示や道案内などはもちろん、メニューやお菓子のラッピングなど多岐にわたる。私自身、仕事柄そうした英語はついつい読んでしまうのだが、「ん?何か違和感があるなあ」というものが少なくない。つづりが間違っているのはすぐわかる。けれども文法が不自然だったり、ニュアンス面でフシギだったりするのである。自分がネイティブでないだけに「では、どう書き直したら自然になるだろう?」と考えるのも楽しい作業だ。

本書は写真つきでそんな「不思議英語」を紹介し、ワインスティンさんが正しい表記を記している。ニュアンスの面白さをジョーク集ととらえて笑うもよし、ネイティブ英語を覚えるという学習本として活用するもよし。楽しみ方も色々と味わえる一冊だ。ただし、爆笑ネタもあるので公共の場で読むのは要注意。私は本書購入後、お気に入りの静かなカフェで読み進めたのだが、他のお客さんから見たらさぞ異様だったであろう。何しろ、笑いをかみ殺してニヘラニヘラしながら読んでいたのだから。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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