第39回 レストランのサービスに学ぶ「真のサービス」
先日、彩の国さいたま芸術劇場の内覧会に出かけてきました。この劇場は2006年からは演出家の蜷川幸雄さんが芸術監督を務めています。このたびオープンから15年が経過したのを機に大改装が行われました。当初の予定では夏にもリニューアルオープンだったのですが、東日本大震災で資材が不足し、ようやくこの秋に再度お披露目することとなったのです。そのプレイベントとして内覧会が行われたのでした。
内覧会はほぼ1時間で、劇場関係者から改装にあたっての説明ののち、劇場ツアーもありました。利用者だけでなく演者や劇場スタッフにとっていかに使いやすい場所にするのかという観点から改修が行われ、防音や防災面での工夫を知ることができました。西日除けのロールスクリーンには音符のデザインが施されていること、外壁は日焼けによる割れを防ぐために大理石のモザイク柄になったことなど、たくさんの興味深いお話がありました。
さて、内覧会の後は前から気になっていたレストランへ足を運んでみました。同じ施設内にあるフランス料理店です。
店内に入るとフロアスタッフの男性がにこやかに迎えてくれました。そして案内された窓辺の席へ。「内覧会の後でいらっしゃいますか?」と尋ねられました。当日の劇場でどういうイベントがあるのかもしっかり把握しているのがわかります。
ランチメニューはフランス料理で3種類。いずれもお手頃価格です。まずは上品な盛り付けのオードブルから始まりました。サラダやパテなどがさっぱりしたドレッシングに和えられています。先ほどのスタッフが「今日はお車ですか?もしそうでなければ、先ほどの内覧会の資料にクーポン券が入っておりまして、グラスワインの無料サービスもございます」とのこと。確かに資料の袋の中を改めて調べてみると・・・ありました、ありました。レストランの紹介チラシの下にクーポン券がついています。早速グラスワインをお願いしました。
メインの肉料理はボリューム的にも味の面でも実に食べやすいものでした。以前、海外でフランス料理を食べた際には量が多く、味付けもこってりで食べきれなかったのですが、ここでは日本人向けにアレンジされているのがわかります。そうした気配りも大切だなと改めて思いました。
最後のデザートはシャーベット、ムース、タルトの盛り合わせです。タルトは何とルバーブでした。ルバーブといえばかつてイギリス時代によく目にした果物です。日本ではなかなか遭遇しないのですが、イギリスではパイやジャムなどで好まれている食べ物なのです。まさか日本で食べられるとは思っていなかったので尋ねたところ、劇場改修中はレストランも休業したため、その間にオーナーシェフさんがフランスに修行に出かけたとのこと。そこでルバーブのレシピを思いつき、レストランで出すことにしたのだそうです。
今回私はこのレストランで2つの重要なポイントを学びました。
まず、お客様が何を今求めているか、それを察してタイミングよくサービスするという点です。今回の男性スタッフさんがまさにそれを体現していました。しかもサービス内容をにこやかに愛情を持って相手に伝えようとしていたのです。これは通訳業務にも言えることです。サービスというのは、「自分が」やりたいサービスのことではなく、「相手が」望むサービスを提供することです。自分の商品を愛してそれを大切に相手にお届けすること。これはどの業界でも当てはまると思います。
2点目は、「サービス提供者は常に学習者である」という点です。先のオーナーシェフさんは、劇場改修による長期休業を「学びの期間」ととらえ、自己投資のために使いました。そして学んだことを社会に還元する、つまりレストランのメニューに反映させ、お客様に喜んでいただく、ということが大切なのです。通訳者も同様です。仕事の閑散期にこそ、勉強や芸術鑑賞、旅行などで自分の知性や感性を豊かにすることが、仕事への還元につながります。そしてそれがお客様へよりよいサービス提供となっていくのです。
私は通訳業というものが、頭脳労働以上にサービス業であると思っています。お客様が望むサービスをいかに提供できるようになるか。私にとっての模索はまだまだ続きます。
「新版 道具と機械の本」デビッド・マコーレイ著、歌崎秀史訳、岩波書店、1999年
私たちは毎日、たくさんの道具と共に暮らしている。パソコンやケータイはもちろん、筆記用具や自動車などなど。「使えることは使えるけれど、中身の構造はわからない」というものがほとんどだ。そんな「中身」の部分をわかりやすい絵で説明しているのが本書である。
たとえば消火器の場合、ハンドルを押せば消火液が出るのはわかっている。けれども中のカートリッジでどのようにガスが動いているのだろうか。あるいは最近新聞で毎日出てくる原発。中のしくみはどうなっているのか。文章だけで仕組みを理解するのは難しいが、この本なら豊富な絵と分かりやすい説明文があるので、すんなり頭に入りそうだ。
私の場合、放送通訳現場で未知の分野に遭遇すると、まずひも解くのが子ども向けの図鑑だ。本書は大人でも子どもでも楽しめて、どこから読んでも良いような作りになっている。なお、2011年に「新装版」として新しいバージョンが出ている。興味のある方はぜひ。
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