第13回 聞き手に心をよせた通訳
この週末、ディプロマットがいただいた通訳の仕事を通して素晴らしい経験をしました。
聖路加看護大学において「がん医療 The Next Step」の国際フォーラムが開催され、サバイバーシップ(がん経験者および家族が遭遇する問題への対処)の支援とその役割や、わが国のがん医療の次なる課題についてなどが話し合われました。
今の日本では2人に1人が、がんを発病する、そして3人に1人が、がんで亡くなることを知りました。また、小児がんと成人がん、それぞれのフォローアップの違いについても学びました。今では、がんの治療を受け、その後長く生活を続けられる人も少なくないそうです。自分らしく生きることができるよう、周りはどのようにサポートしていくのかが社会として問われているということでした。アメリカでは、その概念全体を「キャンサー・サバイバーシップ」と呼んでいます。
米国で開催されたフォーラムにおいて、通訳者が「サバイバル」を「生き残り」と訳したことがあったそうで、自身も乳がんを経験し、同志と同じ経験を持つ方々をサポートするグループを立ち上げて活発に活動している方が、『通訳者が「サバイバル」を4回も「生き残り」と訳した。5回言ったら抗議しようと思った。』という発言をされました。
まさに通訳者は発言者の意向を「正確」に伝えると同時に、当事者を含む異なる立場の人がおられるであろう聴衆を意識して訳出する必要があることを改めて思いしらされました。「サバイバル」、または、「サバイバーシップ」をどのような日本語で表わすかが議論になりました。実情のないところには、概念がなく、言葉も存在しないのです。カタカナになっている言葉をどのように置き換え、聞き手に伝えるかは通訳者の大事な作業の1つであると思います。
原 不二子
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