第13回 コミュニケーションの必要性
通訳は、それぞれの母国語へのアウトプットが基本となります。多言語が用いられる大規模な会議では、まずさまざまな言語を英語に訳出するブースがあります。欧州で開催される会議だと、ゲルマン系のドイツ語やオランダ語から英語に訳出する通訳者とラテン系の仏語・イタリア語・スペイン語・ポルトガル語から英語に訳出する通訳者が中心になります。
欧米の通訳者といえば、今や専門とする言語を複数持っているのが常ですが、悲しいかな、日本と中国の通訳チームは日本語⇔英語、中国語⇔英語のみを受け持つのが一般的です。日本の方が中国より早く国際社会に進出し、通訳が活躍してきた歴史も長いはずですが、いまだに多言語を使いこなす通訳者は少ないのです。
しかし、最近では英語・フランス語・日本語をこなす若い通訳者を目にする機会も増えてきているのは本当に素晴らしいことだと思います。フランス語は長年、外交言語として使用されてきた歴史があり、アラビア語からでもフランス語へ訳すことが多かったようですが、今は英語へ訳出することが一般的となりました。
私が過去約30年間、ほぼ毎年通訳を務めている国際労働総会で最近感じるのは、ビルマ(ミャンマー)などあまり国際的な場に出て来ない国の代表も大変流暢な英語をお話になられることです。同様に、イスラム諸国の政府代表には女性が多く、単に彼女たちの英語力が素晴らしいだけではなく、自分たちの声を世界に届けようというコミュニケーション力も突出しているのです。アフリカ各国からの代表にも英語や仏語を自在にこなす人たちが増えています。
日本の課題は、英語力にも増して、コミュニケーション能力の欠如にあるとつくづく思います。他人とうまくコミュニケーションを図れることは、通訳者にとって重要な要素のひとつであると思うのです。
原 不二子
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