第12回 ヨーロッパ便り
去る6月1日から、ジュネーヴでILO(国際労働機関)の記念すべき第100回年次総会の仕事をする機会をいただきました。
ILOは、第一次世界大戦(1914~1918年)終結後、国際連盟の発足とともに設立された政労使三者構成の唯一の機関でもあります。1919年10月にワシントンで開催された第1回から今日に至るまで、「働きたい全ての人が、自由に選択するディーセント・ワークにつくことができる社会正義があってこそ、初めて世界平和が築かれる」という信念が機関を支えています。
長い間、この「ディーセント・ワーク」をどのように訳すのかが通訳者にとって「課題」でした。「適切労働」では意を尽くせないとして、何年かは「ディーセント・ワーク」とカタカナを使うように指示されましたが、最近では、「人間らしいやりがいのある仕事」と説明するようになりました。日本には概念がなく、適切な日本語に置き換えられない表現の通訳は、通訳者にとって大きな課題です。
海外へ出て仕事をすることは日本を外から見る機会でもあり、また自分の生き方を客観的に見る良い機会にもなります。
社会の雰囲気か、風土なのか、自分の能力を伸ばすことが奨励される風土と、「出しゃばらない」、「出過ぎたことはしない」ことを良しとする風土があることを感じます。「出る杭は打たれる」とか「雉も鳴かずば撃たれない」というような格言に見られるように、残念ながら日本は、それぞれが持って生まれた才能をさらに伸ばすことを奨励するより、むしろ阻む風土ではないかと思います。私たち有権者は「政治家にリーダーがいない」と批判をしますが、一方で「敵をつくらない人」、「出しゃばったことを言わない人」をリーダーに選ぶ風土があるのではないかと思うのです。政治家はもともと私たちと同じで、政治家の政治素養は有権者より高くも低くもないことを忘れてはならないと思います。政治家のリーダーシップは不在がちですが、3月11日の東日本大地震に次ぐ原発の事故で、若い世代がごく自然に各地でリーダーシップを発揮している様を見聞きし、日本の風土が変わることを大いに期待しているところです。
ヨーロッパはアメリカやアジアと異なり、やはり歴史と共に歩んできた文化に基づいていることを感じさせられます。
6日に18:30から21:00までの夜業を担当したとき、たまたま同じ委員会で仕事をしていた世界経済フォーラム通訳チームのチーフから「9時に終わったらワインでも飲みに行かない」と誘われたので、二つ返事で同行してくれている夫に電話をし、ジュネーヴ湖畔の約束のレストランに先に行って席をとってもらいました。夜9:30でも明るく爽やかで、大いにサマータイムのメリットを感じました。日の出は5:00前なので節電にもなります。日本も早くサマータイムを導入したら良いと思いました。
声をかけてくれた彼女はドイツ人ですが、夫君はスイスの欧州核原子力研究所CERNに最近まで勤めておられた理論核物理学者です。彼女はヴァイオリン、夫君はチェロの奏者で、余暇には夫婦でオーケストラに参加し、演奏するそうです。仕事と趣味、まさにワーク・ライフ・バランスが最高のレベルでよく保たれているのです。
サマータイムに、ワーク・ライフ・バランス、日本が進んで取り入れるべき欧州の良き文化だと思います。
原 不二子
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